oneself 前編
しばらくして、泣き疲れて、顔からタオルを離し、ふと隣を見た。


正座に近い体勢のまま、さっきと同じ位置に、固まったままの哲平。


哲平なりの、優しさなんだろうな、こういうところ。


あたしの顔を見て、気まずそうに下を向く哲平は、今、何を思ってるんだろう?


泣いてばかりのあたしを、鬱陶しく思っているかも知れない。


物分かりの悪い女だって、呆れてるかも知れない。


あたしは無言のまま、テーブルの上へと視線を移した。


せっかくの豪華な料理は、手を付けられないままで。


冷めてしまった天ぷら。


乾いてしまったお刺身。


それらが淋し気に、こっちを見ているような気がした。


「食べよっか」


あたしは哲平に笑いかけ、再び箸を手に取った。


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