oneself 前編
戸惑いながらも重たい腰を上げた哲平は、あたしの向かいの席に座ると、ゆっくりと箸を持った。


哲平の心配そうな視線を感じながら、あたしはせっかくの料理を残さないよう、ひとつひとつ口に入れていく。


不思議だな。


こんな時でもお腹はちゃんと減って、美味しい物を美味しいと感じられるんだ。


大好きな鯛のお刺身を口に含むと、自然と笑みが漏れる。


「哲平、これめっちゃ美味しいで」


そんなあたしの言葉に、哲平は一瞬びっくりして、でも少しぎこちない笑顔で笑い返してくれた。


次第に哲平も料理に手を付け、あたし達はゆっくりと、遅くなった夕飯の時間を過ごした。


何も言わないあたし。


何も聞かない哲平。


時折、差し障りのない会話をしながら、静かに流れていく時間。


30分ほどして、ようやく全ての料理を食べ終わった。


熱いお茶を飲みながら、最後のデザートを食べる。


それも食べ終わって、二人でごちそうさまをしてから、その部屋を後にした。


未だにぎくしゃくしたままのあたし達。


これからどうしよう。


せっかく京都に来たんだし、何とか楽しく過ごせないかな。


哲平だって、あたしの事を思って、ここに連れて来てくれたんだもんね。


長い廊下の窓の外に見える、ライトアップされた綺麗な庭を眺めながら、あたしはそんな事を考えていた。


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