oneself 前編
「今まで以上に、仕事に真剣に取り組もうと思ってる」


そう低い声のままで言った哲平の表情は、さっきよりも険しく、そして申し訳なさそうだった。


真剣に取り組む?


言ってる事理解出来ず、首をかしげて哲平を見つめた。


ただ、哲平の表情から、あたしにとって良くない話なんだろうという事は、何となく感じる。


次の言葉を待つあたしに、哲平は覚悟を決めたかのような顔で言った。


「これからは電話、メールの営業、同伴、アフター、そういう事もしていくと思う」


そう、相変わらず低い声で。


哲平の言葉を、頭の中で繰り返す。


すぐに理解が出来るほど、あたしはその世界に詳しくはなくて。


でも、いつか見た事があるテレビの情報や、この前の遠藤さんの話。


それは…


お店以外でも、お客さんと連絡を取ったり、会ったりするって事だよね?


やっとの事で理解したあたしに、襲いかかる不安。


いつかの光景が、お店の前ではなく、別の風景にすり変わる。


あたし以外の女性と腕を組みながら、ミナミの街を歩く哲平。


そんな妄想は留まる事なく、どんどんと溢れ出し、あたしの頭の中を支配していく。


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