oneself 前編
「あたしにはやっぱ無理かな。喋るんとか苦手やし、お酒も飲めへんし」


情けない声を出すあたし。


でもそんなあたしを、翼は笑い飛ばした。


「おとなしい子が好きなお客さんだっているし、お酒は未成年だから飲まなくていいよ。あたしは飲みたいから飲んでるけど」


そう一気に言った翼は、「大丈夫!」と、ピースサインを作って見せた。


「あ、それにね…」


翼はあたしが不安に思っていた事が、なぜ分かるのだろう?


仕事は会話をするだけで、お触りなどは一切ない事。


かわいい子はもちろんいるけれど、意外に普通の子も沢山いると教えてくれた。


そして両親や友達には、自分から打ち明けるか、お店に飲みに来て見つかるか以外は、絶対にばれないと言った。


あたしが1番心配しているのは、そこだった。


両親はもちろん、幸子や香、高校時代の友人にも知られたくない。


それ以外にも、衣装の事、シフトの事…


最初はキャバクラの仕事を受け入れてもらえるか不安そうにしていた翼は、いつしかやり手の店員さんのような勢いで、興味を持ったあたしの中に、どんどんと入ってきた。


あたしにも、出来るのだろうか…?


哲平はあたしがキャバクラで働くと言ったら、何て言うだろう…?


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