oneself 前編
必死でマスカラの繊維を手でこすりながらも、条件反射でバッチリとカメラ目線だったあたし。


幸子は腹を抱えて笑っている。


「最悪!ホンマに撮るとか…」


思わずむくれるあたしに、香が相変わらずのんきな声で、自分の目の下を指差しながら言った。


「大丈夫やって。見て、あたしも黒いし!」


香の顔を、覗き込む。


「ホンマや、涙の跡が黒くなってるやん」


「やろ?」


そんな香は、卒業式が始まった早々泣いてたっけ。


そういえば、体育祭の時も、文化祭の時も、香が誰よりも真っ先に、泣き出していたのを思い出す。


< 5 / 245 >

この作品をシェア

pagetop