oneself 前編
「あ、幸子からメールあって、ちょっと遅れるって。先にお店入っとこ」


さっさと歩き出す香の後を、小走りで追いかける。


「うん、何食べるん?」


「幸子のお薦めの店~。この辺なんやけどな~」


そう言って香は、周りをぐるりと見渡した。


「あ!あった!」


香の指差す方向に目をやると、赤茶色のレンガで囲まれた、おしゃれな感じのお店があった。


高そうなお店…、なんて思っているあたしとは裏腹に、


「雑誌にも載ってるんやって、ここ!」


と、楽しそうにどんどんと進んで行く香。


あたしは緊張しながらも、香の後ろをついて行った。


お店に入った瞬間、今まで見たことのない雰囲気に圧倒され、あたしは席に腰をおろすまで、一言も発する事はなかった。


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