oneself 前編
「行こっか」


それだけ言って、哲平はあたしに背中を向けて歩き出した。


もっと、喜んでくれると思ったのに。


それから映画を見て、軽くお昼ご飯を食べている間も、哲平は仕事の愚痴を言いながら、あたしの変化に触れる事はなかった。


それどころか、普段よりもあたしを見ないで、そっぽを向きながら話す哲平。


哲平はあたしが変わっても、全く興味がないんだ。


周りの人達は、褒めてくれたよ?


男の人だって、かわいいって言ってくれたよ?


仕事で大変なのは分かるけど、「疲れた」だの、「行きたくない」だの、愚痴ばっかりをこぼす哲平に、あたしはイライラを隠せないでいた。


ご飯を食べ終えてお店を出た頃。


哲平はあたしが怒っているのに気付いたのか、あたしの大学での様子を聞いてくる。


「めっちゃ楽しいで」


あたしは嫌味っぽくそう答えて、目の前に並んでいるショップを、ぼーっと眺めていた。


「何か服でも見る?」


あたしの機嫌をとるように、明るく言う哲平。


哲平が困っているのが分かる。


分かってるけど…


あたしはやっぱり、哲平に褒めて欲しかった。


誰よりも、哲平に。


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