oneself 前編
奈美は一人暮らしで、大学のすぐ近くのマンションに住んでいた。


ここからは歩いて行ける距離だ。


哲平の事が、チラリと頭をよぎる。


けれど、このまま終電に乗って家に帰るだなんて、言えなかった。


「わかった、奈美の家で語ろっか!」


「ホンマに?ありがとう!」


明日の朝には奈美の家を出て、一度家に帰って準備を済ませてから、哲平の元へは向かえばいい。


奈美の喜ぶ顔を見て、あたしは改めてそう思った。


哲平…


何があったかはわからないけど、明日には会えるから、これでいいんだよね?


今は、奈美の事が心配なんだ。


もちろん、哲平の事も心配してるよ。


でも、哲平なら大丈夫って。


あたしはそう思ってたの。


哲平の優しさに甘えて、哲平の辛さに気付けなかった。


でもね、この先あんな未来が待ち受けているとわかっていたのなら…


あたしは迷わず哲平の元へ行ってたよ?


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