いきぬきのひ
「あれ? ちょっと太った?」
 久々の再会だというのに、いきなりの先制パンチ。相変わらずの容赦無しは健在だ。
「やっぱり、解ります?」
 くやしいから嫌みなほど満面の笑みで答えてあげる。とは言え、確かに事実は事実だから、その辺は四の五の言わずに素直に飲み込むのが大人の対応だ。
 平日の正午。
 じっとりとした曇り空ながらも、深緑の公園はランチタイムの開放感で活気づいていた。
「どうしても飲食関係の職場だと、食べる機会、増えちゃうんですよね」
 苦笑しながら答えると、だろうね、と軽く受け流された。
 なら、言わないでほしい。私なりに、気にしているのだから。
「今日はすいませんね。学会でちょうど近くまで来たもんだから」
 なんとも軽い調子で彼が詫びてきた。その、全くもって申し訳ない感ゼロな口調に、意地悪の一つもしてやりたくなる。
「ええ、ホントいい迷惑ですよ。いっつも自分都合ですもんね」


 それはちょうど一時間ほど前のこと。
 スマホが、流れるはずのないメロディを奏でた。
 液晶の画面に表示された文字はやっぱり、幸田アキユキ。
 通話ボタンを押す指が、一瞬だけ躊躇った。
「……もしもし」
 緊張の余り、声が掠れた。
『あ、……幸田、ですけど。麻衣子さん?』
 携帯の向こう側の声も掠れていたから、思わず吹きだしてしまった。
< 1 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop