あの日失くした星空に、君を映して。
深影と一緒に行くところといえば、ニシロ階段を登った先の高台だ。
だからそこに行くんだろうなと思った…のに。
「深影…?どこ行くの?」
ニシロ階段の前を素通りして、下町に通じる下り坂を下っていく。
下から手を引かれると歩きにくくて何度も突っかかりそうになるけれど、しっかりと握られた手を解くことができない。
見慣れた町並みをくぐり抜けて、路地が交わる場所に出るとある香りが漂う。
まさか…
細い路地を流れる、潮の匂い。
「深影!なんで…」
力いっぱいに深影の手を引っ張る。
けれど私の弱い力じゃ全然適わなくて、行きたくないのに進んでしまう。
だって…まだ、ダメだよ。
高台から見るのは平気だって言ってた。
2人で並んで夕日が沈んでいくのを何度も見た。
でも…これはダメだ。
まだ無理だよ。
泣きそうになりながら、あることに気が付いた。
震えてる、深影の手。
だいぶ寒くなってきたのに汗ばむ手は明らかにおかしい。
平気なわけがないんだってすぐにわかった。