あの日失くした星空に、君を映して。
波打ち際に押し寄せる夜空の色を映したような黒い水。
そのギリギリまで近付いて深影はようやく足を止めた。
「みか……っ…」
声をかけようとした瞬間、繋がれたままの手が強く引かれて、勢いのままに深影の胸に飛び込む。
困惑よりも先に、深影の胸から伝わってくる鼓動。
バクバクと大きな音を立てる胸に頬を押し付けながら、その背中を摩る。
「大丈夫、大丈夫」
私ってなんでこんなことしか言えないんだろう。
もっと深影に言いたいことはあるはずなのに、言葉として浮かんでこない。
抱き締めることと、ただ「大丈夫」を紡ぐことしかできないのがもどかしい。
だんだんと落ち着きを取り戻していく深影。
深影の顔が伏せられた肩口がじわりと濡れた。
「……ごめん、鏡華」
グッと肩を押されて深影との間にできた距離。
その距離を埋めるよりも前に深影の顔を覗きこむ。
月明かりに照らされた横顔は青白くて、額には汗が滲んでいる。
「…帰ろ、深影」
見ていられなくて、今度は私が深影の手を引く。
黙り込んでしまった深影の冷たい手をしっかりと握って、さっき通った道を引き返す。
家への小道を素通りしてニシロ階段を登る間も深影は黙ったままだった。