あの日失くした星空に、君を映して。


「なあ、あれ覚えとる?」


私を腕の中に閉じ込めたまま、深影の声が耳元に響く。


あれって…なんだろう。


思い当たる節がなくて、小さく首を傾げる。


「今日の空は明日にはない、って言ったやろ」


「あ、覚えてる」


よく覚えてるよ。


空を見上げる度に思い出していた、深影が教えてくれたこと。


深影の肩越しに夜空を仰ぐと、雲がものすごいスピードで風に流されているのが見えた。


万華鏡みたいだ。


散りばめられた星が幼い頃何度も覗いた万華鏡の中の世界によく似てる。


些細な違いだけれど昨日とは確かに違う空を見上げて、感嘆の声を漏らす。


体をよじって夜空を見渡していると、不意に深影の腕が解かれた。


「鏡華がおらんと寂しくなるな」


「へ?」


「毎日連絡してこんかったら拗ねる」


え…え、なに?


引っ越しの話をしてから今日までそんなこと言わなかったのに。


内心少しパニックになって、ほとんど深影の言葉が耳に入ってこない。


「好き?」


「え!?」


待って、その前の話聞いてなかった。


なんでいきなり「好き?」になるの?


「好き…だけど…」


何か、すっごい悔しい。


さっきもさらっと好きって言っちゃったし、私ばっかりずるい。


わざと口をもごつかせていると


「そっか…」


深影が嬉しそうに笑うから、何も言えなくなってしまう。


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