あの日失くした星空に、君を映して。
蕾を膨らませた桜が開花し始めた春。
無事に高校を卒業した私は大きな荷物と共に電車に乗り込んで、あの町に向かっていた。
だんだんと見慣れたものになっていく車窓の外の景色にソワソワと落ち着かない。
いろいろと忙しくて仮卒期間中には来られなかったから、冬休みぶりだ。
電車内に待ち侘びたアナウンスが流れて、勢いよく立ち上がる。
って…焦りすぎかな、私。
1人で苦笑いをしながら、ゆっくりと停車した電車から降りる。
大きくて重い荷物を引っ張って駅の構内に入ると、明るい声が飛んできた。
「鏡華ー!!久しぶり!」
「わっ…風香!久しぶりー!」
長かった髪を短く切り揃えた風香はツインテールの時と印象は違うけれど、よく似合ってる。
久々にぎゅーっと抱き合っていると、風香の後ろから背の高い男の人が近寄ってきた。
え…誰だろう。
あのくせっ毛具合、どこかで見たような気が…
「もー、幸久テンション低すぎ!鏡華が帰って来るの何ヶ月振りと思っとんの!」
「工藤くん!?」
嘘っ、工藤くんなの!?
冬は会えなかったし、工藤くんと顔を合わせるのは夏振りだ。
たった半年でこんなに変わるの?
背、すっごい伸びてるし。
驚きを隠せない私の手からバックを取って、工藤くんが先に駅の外に出る。
「えっ、待って工藤くんそれ重いからいいよ!」
「別にいい」
ぶっきらぼうに言うからわかりにくいけれど、工藤くんってさりげなく紳士的だよね。
風香ともなんだかんだいい感じなんだと思う。
風香は進展なしって言ってるけれど、メールを見る限り、前の2人とは確実に違う。
工藤くんは地元を離れずに家で修行をするんだって。
だから多分、これからも風香とはなんだかんだ上手くやっていくんだろうな。
「っていうか…深影は?」
外にも駅の中にも深影の姿はなくて、来てくれたのは風香と工藤くんだけ。
美里さんは県外に進学する関係で今日はいないって聞いたけれど…
てっきり深影は来てくれているものだと思ってたよ。