あの日失くした星空に、君を映して。
「鏡華、手出して」
手?なんで?
私が手を差し出すよりも早く、深影に引っ張られる。
「な、なに………」
手のひらの上に乗せられたものに目を見開く。
だって……なんで…
「万華鏡…?」
ちりめん柄の小振りな筒は万華鏡にしか見えない。
恐る恐る万華鏡を持ち上げると、微かにシャラっと音がした。
「鏡華にもらった万華鏡さ、直したかったんやけど無理やった」
「え…あれは直らないよ」
ガラスが破損してるし、職人さんなら直せないことはないのだろうけれど、だいぶ劣化していたし…もう元の形に戻そうとは思っていなかった。
深影が欲しいって言うから、引っ越しの当日にあげたけれど、まさか直すつもりだったのかな。
「やけんそれ作った」
「作ったの!?」
「結構上手くできたと思うんやけど、どう?」
慌てて万華鏡の中を覗きこんで、絶句した。
これって…
くるくると筒を回して確信する。
「あの万華鏡と同じ…?」
確かに記憶に焼き付いているあの万華鏡の図形と同じものが鏡に反射してる。
「じいさんが万華鏡作ったことあるんだと。教えてもらった」
「じいさんって」
深影っておじいちゃんのこと「じいちゃん」って呼んでなかったっけ。
若干不服そうにも見えるし。
「マツの方のじいさん」
言いながら、草原の奥にポツリと建つ小屋を指差す深影。
マツじい…か。
普段は滅多にここから離れないらしいのだけれど、見送りには来てくれたんだよね。
去年の夏休みに来た時も快くキャンプ用具を用意してくれた。
よくわからない人だとは思っていたけれど、万華鏡まで作れるんだ。
壊れた万華鏡の中身を埋め込んで作ったのが、この小振りの万華鏡。
「深影不器用なのにすごいね、ありがとう」
「一言余計なんだよ」
嬉しいよ、すごく。
もう二度と見ることはないと思っていた。
巡るビーズや細片には1つも狂いがない。
あの万華鏡がそのまま手元にあるような錯覚をして、息が詰まる。