サニーサイドアップ
2.
「なんであんたがこんなとこにいんのよ?」
と弓音(ゆみお)は不機嫌そうに言って赤いフレームの眼鏡のリムをヒトサシ指と中指の背で持ち上げた。
「俺の勝手でしょ。」
航(わたる)は空色の手ぬぐいを巻いた頭を傾げて眼鏡の縁を右肩で持ち上げた。包みあがった弁当を白いビニール袋に入れてにこやかに列の先頭のサラリーマンに差し出す。「まいど、どうも!」と明るい声で言ってお金を受け取った。
「勝手…って…まぁ、そうだけど」
「営業妨害だよ、ゆみさん。ね、暇ならそこから袋の束だしてくんない?」
「ひ…暇ってことあるわけないでしょうが。」
そういいながらも弓音は弁当が並んだ台の横に置いてあるビニール袋の束を手拾い上げた。袋のてっぺんを千切って航に手渡す。
「ちょっと!なんでこっち破んだよ。使いにくいだろうが。ビニールの底から取り出して行くんだよ、なんだよもう、使えねーやつだなあ!!」
「は?なにそれ、人に物頼んどいて!!」
「あーそうでした、ごーめーんーなーさいい。ったく、いちいちどっちあけてって言わないと何もできない人に頼んだ俺が悪かったわ。はい、のり弁ですねー!500円です!毎度~!」
ほとんどひっきりなしに、まるで呟くように憎らしい口を弓音に向けながらも、客にはにこやかにはきはきと対応している。慣れた手つきで弁当を捌いて行く。若いOLには特に優しい笑顔で弁当を手渡して、布を切っただけのクロスを広げた台の上の弁当はすぐになくなってしまった。
「あーーーーーーっっっ!!!!!!」
クロスを引いて折りたたみのテーブルが剥き出しになったところで、弓音は大きな声を上げて、頭を抱えた。
「ああ?」
航はクロスを畳みながら弓音を横目でチラリとみて、遅ればせながらやってきた客に
「あ、すみません。今日はもうおかげさまで売り切れまして。またおねがいしまーす」と頭を深々と下げた。
「べんとう…」
やっと言葉になった単語を弓音は抱えた頭を擡げながら言った。
「え?」
「お弁当!!買いに来たのよ、お弁当を!買うの忘れちゃったじゃないのよ!」
「あぁ、そうなの。ごめん、気づかなかった。」
「気…気づかなかったって…買いに来たにきまってんじゃん。じゃなきゃ何しに来たと思ってんのよ!?」
「俺に会いに来たのかと。」
「ばっかじゃないの。ばっかじゃないの。なんであたしがあんたに会いに来なきゃなんないのよ。なんなのよ、もう。」
「ま、いいじゃん。ね。久々に言われたわ、ばっかじゃないのって、ほんと、変わんねえなあ。──ゆみさん、お弁当何でも良かったら…」
そう言いながら航はケータリングカーの中に頭を突っ込んだ。
と弓音(ゆみお)は不機嫌そうに言って赤いフレームの眼鏡のリムをヒトサシ指と中指の背で持ち上げた。
「俺の勝手でしょ。」
航(わたる)は空色の手ぬぐいを巻いた頭を傾げて眼鏡の縁を右肩で持ち上げた。包みあがった弁当を白いビニール袋に入れてにこやかに列の先頭のサラリーマンに差し出す。「まいど、どうも!」と明るい声で言ってお金を受け取った。
「勝手…って…まぁ、そうだけど」
「営業妨害だよ、ゆみさん。ね、暇ならそこから袋の束だしてくんない?」
「ひ…暇ってことあるわけないでしょうが。」
そういいながらも弓音は弁当が並んだ台の横に置いてあるビニール袋の束を手拾い上げた。袋のてっぺんを千切って航に手渡す。
「ちょっと!なんでこっち破んだよ。使いにくいだろうが。ビニールの底から取り出して行くんだよ、なんだよもう、使えねーやつだなあ!!」
「は?なにそれ、人に物頼んどいて!!」
「あーそうでした、ごーめーんーなーさいい。ったく、いちいちどっちあけてって言わないと何もできない人に頼んだ俺が悪かったわ。はい、のり弁ですねー!500円です!毎度~!」
ほとんどひっきりなしに、まるで呟くように憎らしい口を弓音に向けながらも、客にはにこやかにはきはきと対応している。慣れた手つきで弁当を捌いて行く。若いOLには特に優しい笑顔で弁当を手渡して、布を切っただけのクロスを広げた台の上の弁当はすぐになくなってしまった。
「あーーーーーーっっっ!!!!!!」
クロスを引いて折りたたみのテーブルが剥き出しになったところで、弓音は大きな声を上げて、頭を抱えた。
「ああ?」
航はクロスを畳みながら弓音を横目でチラリとみて、遅ればせながらやってきた客に
「あ、すみません。今日はもうおかげさまで売り切れまして。またおねがいしまーす」と頭を深々と下げた。
「べんとう…」
やっと言葉になった単語を弓音は抱えた頭を擡げながら言った。
「え?」
「お弁当!!買いに来たのよ、お弁当を!買うの忘れちゃったじゃないのよ!」
「あぁ、そうなの。ごめん、気づかなかった。」
「気…気づかなかったって…買いに来たにきまってんじゃん。じゃなきゃ何しに来たと思ってんのよ!?」
「俺に会いに来たのかと。」
「ばっかじゃないの。ばっかじゃないの。なんであたしがあんたに会いに来なきゃなんないのよ。なんなのよ、もう。」
「ま、いいじゃん。ね。久々に言われたわ、ばっかじゃないのって、ほんと、変わんねえなあ。──ゆみさん、お弁当何でも良かったら…」
そう言いながら航はケータリングカーの中に頭を突っ込んだ。