サニーサイドアップ
24.
いつものように郊外に向かう私鉄のターミナルで黒岩と手を振って別れた。立って帰るのが嫌だったので二本見送って座った。くたびれた空気が揺れるのを座席から眺める。
『変わんねーなぁ、動揺するとすぐ疑問形になるのな?』
航は懐かしそうに目を細めていた。あの頃も、勘のいい航が何か言うと時折見透かされたみたいに感じた。その度に何?何なの?とそういえばそんな風にオドオドして、航に分かり易いと笑われたことがあったっけ。
(メールアドレスは変わってないと言っていたけど・・・)
と、そこまで思ったとき、バッグの中で携帯電話が振動した。大門だ、と弓音は思った。それだからわざとのんびりと携帯電話を探る。弓音が急いで携帯電話を取り出したとしても、その姿を航に見られているわけではないのに、と弓音は胸の内の半分で思う。そして、それは、もしかしたら航からのメールではない可能性もあるのだから、という保険のような動作でもあった。携帯電話を取り出して、ほんの一瞬の間を取ってから確認する。やはり航からのメールだった。
『大門です!てすとてすと。本日は晴天なり』
(ほんとに・・・・)
弓音は思わず苦笑した。
そして、ほとんど何も考えることなく、弓音は反射的にメールを打ち返した。
『晴天なのはあんたのアタマだよ。』
『花見に来ませんか?年中春なんで。』
『飲めや、歌えやって?メールでも言わせる気か。バーカ!』
『バーカ、バーカ。弁当箱ピッカピカに洗ってくれてありがとう。助かったよ。』
『こちらこそどうもありがとう。美味しかった。隠された才能があったんだね。ばーか、ばーか。』
『隠されてねえし。溢れてるし。バーカ、バーカ。今日のはどうだった?』
『美味しかったよ。特に白身魚のから揚げ?竜田揚げ?美味しかったわ。正直に言うけど、ナムルは私には少し味が濃かった。』
『ナムルは失敗だった。俺も濃いと思ったもん。味見したときはいいかなって思ったのにな。本番じゃないからって気を抜いちゃだめだな。ありがと。夜分にすまん。では、また』
このメールに、「どういたしまして、おやすみ」と、打てば、再来週の水曜日まできっとメールのやり取りはないだろう。弓音は携帯電話のパネルに指を置いたまま少し考える。もしかすれば、航は返信など待ってもいなくて、「では、また」と打ったまま携帯電話を置いてお風呂に入ってしまったかもしれないし、テレビを見ているのかもしれない。それでも、弓音はなんとなくそのまま、「うん、では、また」と終わらせることができなかった。
『夜分の内に入らないよ。今、帰りの電車だから。では、また。再来週ね。何かあったらメールで連絡するね。』
それでも一応、答える形で終わりにする言葉も打つ。我ながら打算的な、と苦笑いだった。急行電車が二駅飛ばす間、航からの返信がなかった。もしかしたら本当に、航はあれで終わりにするつもりでいたのかもしれなかった。眠るには早すぎる気がしたけれど、お弁当屋さんなら朝も早いだろう。でも、携帯電話のフラップを閉じてバッグにしまおうとした時、携帯がまた震えた。
『残業?いつもこんな遅いの?もう若くないんだから無理するなよー。』
余計な一言が航らしかった。
そして、航の仕事は確かに朝が早い仕事なのではないかと思うと、弓音は急に自分につき合わせているような気がしてきた。
『若くないってところが余計だよ。残業は続くときは続くよね。今日は会社の先輩とご飯食べてたから。大門こそ、早寝しないといけないんじゃないの。精神年齢で言えばお子様だしね。お子様は早く寝ないとね』
『精神だけじゃなくて身体も若いよ。どう若いかはメールには書けないな(照)。朝は4時起き。寝るのは大体11時位に寝る。だからそろそろ寝るよ。
ゆみさん、金曜の夜って残業?』
『変わんねーなぁ、動揺するとすぐ疑問形になるのな?』
航は懐かしそうに目を細めていた。あの頃も、勘のいい航が何か言うと時折見透かされたみたいに感じた。その度に何?何なの?とそういえばそんな風にオドオドして、航に分かり易いと笑われたことがあったっけ。
(メールアドレスは変わってないと言っていたけど・・・)
と、そこまで思ったとき、バッグの中で携帯電話が振動した。大門だ、と弓音は思った。それだからわざとのんびりと携帯電話を探る。弓音が急いで携帯電話を取り出したとしても、その姿を航に見られているわけではないのに、と弓音は胸の内の半分で思う。そして、それは、もしかしたら航からのメールではない可能性もあるのだから、という保険のような動作でもあった。携帯電話を取り出して、ほんの一瞬の間を取ってから確認する。やはり航からのメールだった。
『大門です!てすとてすと。本日は晴天なり』
(ほんとに・・・・)
弓音は思わず苦笑した。
そして、ほとんど何も考えることなく、弓音は反射的にメールを打ち返した。
『晴天なのはあんたのアタマだよ。』
『花見に来ませんか?年中春なんで。』
『飲めや、歌えやって?メールでも言わせる気か。バーカ!』
『バーカ、バーカ。弁当箱ピッカピカに洗ってくれてありがとう。助かったよ。』
『こちらこそどうもありがとう。美味しかった。隠された才能があったんだね。ばーか、ばーか。』
『隠されてねえし。溢れてるし。バーカ、バーカ。今日のはどうだった?』
『美味しかったよ。特に白身魚のから揚げ?竜田揚げ?美味しかったわ。正直に言うけど、ナムルは私には少し味が濃かった。』
『ナムルは失敗だった。俺も濃いと思ったもん。味見したときはいいかなって思ったのにな。本番じゃないからって気を抜いちゃだめだな。ありがと。夜分にすまん。では、また』
このメールに、「どういたしまして、おやすみ」と、打てば、再来週の水曜日まできっとメールのやり取りはないだろう。弓音は携帯電話のパネルに指を置いたまま少し考える。もしかすれば、航は返信など待ってもいなくて、「では、また」と打ったまま携帯電話を置いてお風呂に入ってしまったかもしれないし、テレビを見ているのかもしれない。それでも、弓音はなんとなくそのまま、「うん、では、また」と終わらせることができなかった。
『夜分の内に入らないよ。今、帰りの電車だから。では、また。再来週ね。何かあったらメールで連絡するね。』
それでも一応、答える形で終わりにする言葉も打つ。我ながら打算的な、と苦笑いだった。急行電車が二駅飛ばす間、航からの返信がなかった。もしかしたら本当に、航はあれで終わりにするつもりでいたのかもしれなかった。眠るには早すぎる気がしたけれど、お弁当屋さんなら朝も早いだろう。でも、携帯電話のフラップを閉じてバッグにしまおうとした時、携帯がまた震えた。
『残業?いつもこんな遅いの?もう若くないんだから無理するなよー。』
余計な一言が航らしかった。
そして、航の仕事は確かに朝が早い仕事なのではないかと思うと、弓音は急に自分につき合わせているような気がしてきた。
『若くないってところが余計だよ。残業は続くときは続くよね。今日は会社の先輩とご飯食べてたから。大門こそ、早寝しないといけないんじゃないの。精神年齢で言えばお子様だしね。お子様は早く寝ないとね』
『精神だけじゃなくて身体も若いよ。どう若いかはメールには書けないな(照)。朝は4時起き。寝るのは大体11時位に寝る。だからそろそろ寝るよ。
ゆみさん、金曜の夜って残業?』