サニーサイドアップ
39.
 白いカーテンが揺れている。朝の空気を取り込もうとして窓を開けているからだ。
 「さっむ」
 大きな体を縮こまらせて航は自分を抱くように腕を摩る。
 「閉めてよ」
 「やだ」
 弓音は取り合わない。

 濃いブラウンのテーブルに白いプレートが二枚乗っている。綺麗な目玉焼きと薄いハムが二枚ずつ。
 「上手にできたね」
 と航は目玉焼きを褒める。
 「超絶真剣にやったからね」
 と弓音は笑う。
 航はキッチンカウンターの棚からコーヒーグラインダーと豆をとって専用スプーンで、ひとつ、ふたつ、とホッパーに移した。バルコニーから弓音が何か言っている。
 「なにー?」
 「それしまう場所考えてよ~、おろしておいてよ~、背が届かないから~」
 航は中指で眼鏡をぐいっと押し上げて笑う。
 「だーめ。俺の役目だから。」
 グラインダーのスイッチを入れてホッパーの中で跳ねて細かくなっていくコーヒー豆を見つめた。ガリガリガリという音がどんどん大きくなる。そしてその音はやがてアラームの音となって航の耳に届いた。


 瞼の裏に映った紗がかかったその景色が眩しい。航は身体をぐぐっと伸ばして朝の景色を確認する。いい天気だ。今日作る弁当の数を叩き出す。さあ、仕事だ。
 そうだ、小さなハンバーグに目玉焼きをのせようと思いつく。それが自分の仕事だから、航は真剣に弁当を作る。真剣に目玉焼きを作る。きっと弓音も今頃…。

 胸の痛みはまだずっと続いている。彼女を想う限り続く痛みだ。でも今はそれでいいと思える。だからか、長いこと胸の奥で絡まっていた糸は、でも、近頃ではなんとなくほどけて、そしてその糸は刺繍のように絵を描く。それは決まって向日葵の絵だった。太陽に向かって、太陽の愛を乞う。黄色く、美しい花だった。

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