ビターチョコレート!
目が覚めると部屋の中はオレンジ色に染まっていた。
もう夕方だ……
随分長い間寝ていたんだな~。
手元の体温計で熱を計ると朝よりもぐんと熱が下がっていた。
よかった〜。
心なしか体も朝より楽になっている。
トントン__
ドアがノックされ、伊織くんが入ってきた。
「どう?だいぶ楽になった?」
ドアにもたれかかっている伊織くんが夕日に照らされて何とも言えないかっこ良さだ。
「うん、これなら明日からまた仕事ができるよ!」
ガッツポーズをしてみせると、
「あんまり無理しすぎるなよ、みおりは頑張りすぎるクセがあるから……」
『……え?……』
思わぬ言葉にびっくりした。
ずっと伊織くんは私になんて関心がないと思ってた。
でも………、それって………私のこと見てたってことだよね?
「結婚したばっかりの時、毎晩料理本とにらめっこして寝そうになりながら読んでたじゃん。指に切り傷いっぱい作りながら料理の勉強してさ。」
ふふって笑いながら伊織くんが言った。
「……ありがとな、いつも」
「…こちらこそ、いつも遅くまで働いてる伊織くんには敵わないよ。」
そう私が言うと、ちょっと照れくさそうにそっぽを向く伊織くん。
つられるように、私も顔が赤くなる。
なんだか、少しだけ空気が、私たちを取り巻く空気がほんのり甘くなった。
いつもはつらい沈黙が、なんだか今日は胸が苦しい。
「なっ、なんか食べる?」
気まずさに耐えかねた伊織くんが言った。