ジャンヌ・ダルクと女騎士
3章 初恋
金髪の少女
「馬鹿! 俺が言ったのは、突撃させろってことじゃなくて、お前の体を心配しろってことで……」
そう言いながら、彼が後ろのシモーヌの方を振り返っていたからだろうか。
ドスッ。
鈍い音がしたかと思うと、彼は後ろに倒れてしまっていた。
幸い、大きな盾で体や頭は覆っていたものの、出ていた足に矢が刺さっていた。
「バート!」
シモーヌがその名を叫んで駆け寄ると、彼は引き攣った笑みを浮かべた。
「俺としたことが……ドジっちまったな……」
「何言ってるんですか! 私のせいでしょう! 貴方は、私を庇って、こんな……」
「泣くな……。どうやら、急所は外れているらしいからな……」
「でも……!」
「君が無事で、良かったよ……。これ以上、怪我でもさせてたら、マスターに申し訳が立たない……」
そう言って彼は、シモーヌの前髪を撫でようとしたが、痛みのためか、腕をだらりと下に下ろしたのだった。
「バート! しっかりして、バートっ!」
シモーヌは泣きながらそう言い、彼を抱きかかえたが、彼は気を失ったまま、目を開けなかった。
だからだろうか。それとも、彼のことが心配で、他のことは目に入らなかったのか、彼女は落ちた拍子に脱げたヘルメットにつられて、カツラがずれ、その下の短い髪が出ているのにも気付かなかった。綺麗な金髪が、長い黒髪の間から見えていることに。
……あれは、見間違いだったのか? あの子の髪、黒じゃなくて、金髪だったような気がしたんだが……。それも、まっすぐで、綺麗な色の……。白いドレスでも着れば、よく絵に描かれる天使みたいに見えるかもしれないな……。
そんなことを思う彼の脳裏では、少女は既に頑丈で高価そうな鎧付きの乗馬服ではなく、よくルネッサンス期の絵に描かれるような天使の服装になっていた。
綺麗だな……。出来ることなら、この目で拝んでみたいよ。俺よりは、10歳以上若そうな気もするが……。
そう心の中で呟くと、彼は苦笑した。
「バート……。お願いだから、目を開けて……」
「シモーヌ……?」
そう言いながらバートがゆっくり目を開けると、そこには真っ直ぐ伸びた金髪を短く男のように切り揃えた色白の少女が、今にも泣きそうな表情で彼の顔を覗きこんでいた。
「良かった……! 本当に良かった!」
そう言い、こらえていた涙を流す少女に、バートは微笑んだ。
「大袈裟だな。急所は外れてるから、すぐに歩けるようになるし、大丈夫さ」
「でも……」
そう言いながらまだ涙を流す少女のその涙を拭おうと、彼が手を伸ばそうとすると、何か違和感があった。温かいものに包まれている感じが。
「あれ?」
そう言いながら、少し上に上げた自分の手が、少女の白くて細い手にギュッと掴まれているのを見ると、シモーヌは慌ててその手をほどいた。
「ご、ごめんなさい! 心配だったので、つい……」
「いいさ」
そう言うと、バートは自由になった手を伸ばし、少女の頭を優しく撫でた。
「もう泣くな」
「でも……」
「でも、じゃないぜ。君を泣かしたら、色んな奴に恨まれそうだからな」
そう言ってバートが微笑むと、冗談だと思わなかったのか、少女は驚いた表情で、頭を何度も横に振った。
「大丈夫です。兄上は、そのような方ではありません!」
「そういや、馬もその兄って奴に貰った大事な馬だって言ってたな。大丈夫だったか?」
「ええ。怪我はしていますが、数ヶ月もすれば、普通に走れるようになると思います」
「そうか。良かったな」
「はい」
少女が嬉しそうに微笑みながら頷くと、バートはそんな彼女の顔をちらりと見ながら、言いにくそうに尋ねた。
「じゃあ、あっちの件はどうなったんだ?」
「あっち?」
「ジョルジュとの賭けだよ」
「ああ……」
そう言いながら、彼が後ろのシモーヌの方を振り返っていたからだろうか。
ドスッ。
鈍い音がしたかと思うと、彼は後ろに倒れてしまっていた。
幸い、大きな盾で体や頭は覆っていたものの、出ていた足に矢が刺さっていた。
「バート!」
シモーヌがその名を叫んで駆け寄ると、彼は引き攣った笑みを浮かべた。
「俺としたことが……ドジっちまったな……」
「何言ってるんですか! 私のせいでしょう! 貴方は、私を庇って、こんな……」
「泣くな……。どうやら、急所は外れているらしいからな……」
「でも……!」
「君が無事で、良かったよ……。これ以上、怪我でもさせてたら、マスターに申し訳が立たない……」
そう言って彼は、シモーヌの前髪を撫でようとしたが、痛みのためか、腕をだらりと下に下ろしたのだった。
「バート! しっかりして、バートっ!」
シモーヌは泣きながらそう言い、彼を抱きかかえたが、彼は気を失ったまま、目を開けなかった。
だからだろうか。それとも、彼のことが心配で、他のことは目に入らなかったのか、彼女は落ちた拍子に脱げたヘルメットにつられて、カツラがずれ、その下の短い髪が出ているのにも気付かなかった。綺麗な金髪が、長い黒髪の間から見えていることに。
……あれは、見間違いだったのか? あの子の髪、黒じゃなくて、金髪だったような気がしたんだが……。それも、まっすぐで、綺麗な色の……。白いドレスでも着れば、よく絵に描かれる天使みたいに見えるかもしれないな……。
そんなことを思う彼の脳裏では、少女は既に頑丈で高価そうな鎧付きの乗馬服ではなく、よくルネッサンス期の絵に描かれるような天使の服装になっていた。
綺麗だな……。出来ることなら、この目で拝んでみたいよ。俺よりは、10歳以上若そうな気もするが……。
そう心の中で呟くと、彼は苦笑した。
「バート……。お願いだから、目を開けて……」
「シモーヌ……?」
そう言いながらバートがゆっくり目を開けると、そこには真っ直ぐ伸びた金髪を短く男のように切り揃えた色白の少女が、今にも泣きそうな表情で彼の顔を覗きこんでいた。
「良かった……! 本当に良かった!」
そう言い、こらえていた涙を流す少女に、バートは微笑んだ。
「大袈裟だな。急所は外れてるから、すぐに歩けるようになるし、大丈夫さ」
「でも……」
そう言いながらまだ涙を流す少女のその涙を拭おうと、彼が手を伸ばそうとすると、何か違和感があった。温かいものに包まれている感じが。
「あれ?」
そう言いながら、少し上に上げた自分の手が、少女の白くて細い手にギュッと掴まれているのを見ると、シモーヌは慌ててその手をほどいた。
「ご、ごめんなさい! 心配だったので、つい……」
「いいさ」
そう言うと、バートは自由になった手を伸ばし、少女の頭を優しく撫でた。
「もう泣くな」
「でも……」
「でも、じゃないぜ。君を泣かしたら、色んな奴に恨まれそうだからな」
そう言ってバートが微笑むと、冗談だと思わなかったのか、少女は驚いた表情で、頭を何度も横に振った。
「大丈夫です。兄上は、そのような方ではありません!」
「そういや、馬もその兄って奴に貰った大事な馬だって言ってたな。大丈夫だったか?」
「ええ。怪我はしていますが、数ヶ月もすれば、普通に走れるようになると思います」
「そうか。良かったな」
「はい」
少女が嬉しそうに微笑みながら頷くと、バートはそんな彼女の顔をちらりと見ながら、言いにくそうに尋ねた。
「じゃあ、あっちの件はどうなったんだ?」
「あっち?」
「ジョルジュとの賭けだよ」
「ああ……」