ジャンヌ・ダルクと女騎士

シャルル王太子の真意

「分かった。協力して、早くランスに行って頂けるよう、努力しよう」
 彼に代わり口を開き、そう言ったのは、ジャン・ド・デュノワだった。
「はい、お願い致します」
 ジャンヌはそう言って微笑むと、満足したのか、そこから足早に去ってしまったのだった。
「アランソン公」
 それを見届けると、デュノワが彼に近付いた。
「戴冠式のことですが、何かあるのですか?」
「実は、陛下が司令官に任命された時におっしゃられたのです。ランスで戴冠しても、敵の力が弱くならない場合は、乙女に責任をとらせると」
「何ですと!」
 デュノワが目を丸くして大きな声でそういうと、アランソン公が近付き「しっ!」と言いながら唇に指を当てた。
「静かに! 他の者には聞かれぬ方が良いと思いますので……」
「それは、確かに」
 デュノワはそう言うと、周囲を見回した。
 オルレアンの町中とはいえ、礼拝堂の中だったので、人もまばらな上、修道士や修道女は自分たちの仕事で忙しいので、二人の方をチラリと見ただけだった。
「それで、責任を取らせるというのは、具体的にどういうことなのでしょうか?」
「そこまでは分かりませんが、司令官等という役とは程遠いのは確かでしょうな」
「それ位で済めばよいのですが……」
「まさか、命を差し出せとまではおっしゃらないでしょう」
 アランソン公のその言葉に、デュノワは作り笑いを浮かべた。
「ま、まさか……」
 デュノワの作り笑いが「ありえる」と言っていると思ったアランソン公は、たちまち真っ青になった。
「乙女のように未来を予知することも、私には出来ませんのでどうなるかは分かりませんが、リッシモン元帥のこともあります。万が一のことがないよう、我々が乙女を守っていくしかないかと」
「心得た」
 そう言って大きく頷くアランソン公に、デュノワも決意を込めた瞳で頷いた。

 ───そして、その二人の言葉通り、アランソン公ジャンは、ジャンヌの傍らで指揮をとり、次々とロワール川沿いの町を落としていったのだった。
< 119 / 222 >

この作品をシェア

pagetop