ジャンヌ・ダルクと女騎士
4章 兄と弟
過保護な兄
「ジョルジュ!」
マルクがそう声を上げたのと、シモーヌが追いかけようとして、カレンに止められたのは、ほぼ同時だった。
「駄目だよ! 今行ったら、甘やかすことになるからね!」
その言葉に、ドアの方に向かっていたマルクの足も止まった。
「でも、あのままじゃ……」
シモーヌが困った表情でそう言うと、カレンは苦笑した。
「何もずっと放っておけとは言ってないだろ? 今だけだよ。たまには、自分を見詰め直すことも必要だからね。でないと、感情に流されて、自分をコントロール出来ないまま、悲惨な最期を迎えることになりかねないからね。傭兵っていうのは、そんな甘いもんじゃない。マルク、そうだろ?」
その言葉に、ドアの傍で立っていた大柄な兄もゆっくりカレンを振り返った。
「はい……。私は、あの子を甘やかし過ぎてきたんでしょうか?」
「少しね」
カレンはそう言うと、再び苦笑した。
「まぁ、二人きりの兄弟だし、親もあの子が小さい時に亡くなったんだろ? だったら、過保護になるのも分かるよ。でもさ、少しは厳しいところも見せないと、あの子の為にならないよ?」
「はい……」
マルクがそう返事をして、項垂れると、それまで黙ってカレンの傍に立っていた東洋人の男が声を上げた。
「流石、大家族で育ったカレン殿は違うでござるな」
「な……! ヨシマサ! 余計なことは、言わなくていいんだよ!」
たちまち真っ赤な顔で彼に食ってかかる、カレン。
だが、本気で彼の胸を叩くのではなく、顔を隠すことが目的のようで、かなり手加減しており、それをヨシマサも分かっているのか、いつの間にか、彼女を優しく抱きしめていた。
「それで、面倒見がいいのですね」
そんな二人の仲睦まじい姿を見ながらシモーヌがそう言うと、カレンはまだ少し赤い顔を彼女の方に向けた。その一瞬前に、ヨシマサと一瞬、見詰め合って。
「まぁ、そうかもしれないね。あたしが皆を食わしていかないといけなかったからね」
「カレン殿は、よくやっておられる」
「も、もう、ヨシマサってば、恥ずかしいだろ!」
そう言って一度、トンと彼の胸元を叩くと、彼女は真っ赤になった顔を手で隠した。
「いや、誠によくやっておられる」
それでもヨシマサがそう言うと、二人の傍にいた男達が口々にヒューと口笛を吹いて囃したてた。
「ほら、こうなるだろ! だから、止めてって言ってるのに!」
「だが、拙者は誠に心の底から思っておることを口にしただけで……」
「もう、だから、そういうのは分かってるってば! やだね、この人は!」
そう言いながら、真っ赤な顔でちょっとヨシマサをこずくカレンは、どう見ても嬉しそうにしか見えなかった。
ご夫婦なのかしら? いずれにしても、邪魔しちゃいけないわよね……。
そう思いながら、シモーヌがドアの方に向かおうとした時、こちらを見ていたマルクと目が合った。
『こっちです』
マルクの目がそう言った気がして、シモーヌは黙って彼に近付いた。
すぐ傍まで行くと、そっとその腰にマルクが手を遣り、人に見つからないように外に誘った。
そうされながら、シモーヌがチラリとカレン達を見ると、二人はまだシモーヌとマルクがこっそりそこを後にしようとしているのにも気付いていないようだった。
今のうち、ってことね。
そう心の中で呟き、マルクを見て小さく頷くと、二人は何も言わずにそこを後にしたのだった。
マルクがそう声を上げたのと、シモーヌが追いかけようとして、カレンに止められたのは、ほぼ同時だった。
「駄目だよ! 今行ったら、甘やかすことになるからね!」
その言葉に、ドアの方に向かっていたマルクの足も止まった。
「でも、あのままじゃ……」
シモーヌが困った表情でそう言うと、カレンは苦笑した。
「何もずっと放っておけとは言ってないだろ? 今だけだよ。たまには、自分を見詰め直すことも必要だからね。でないと、感情に流されて、自分をコントロール出来ないまま、悲惨な最期を迎えることになりかねないからね。傭兵っていうのは、そんな甘いもんじゃない。マルク、そうだろ?」
その言葉に、ドアの傍で立っていた大柄な兄もゆっくりカレンを振り返った。
「はい……。私は、あの子を甘やかし過ぎてきたんでしょうか?」
「少しね」
カレンはそう言うと、再び苦笑した。
「まぁ、二人きりの兄弟だし、親もあの子が小さい時に亡くなったんだろ? だったら、過保護になるのも分かるよ。でもさ、少しは厳しいところも見せないと、あの子の為にならないよ?」
「はい……」
マルクがそう返事をして、項垂れると、それまで黙ってカレンの傍に立っていた東洋人の男が声を上げた。
「流石、大家族で育ったカレン殿は違うでござるな」
「な……! ヨシマサ! 余計なことは、言わなくていいんだよ!」
たちまち真っ赤な顔で彼に食ってかかる、カレン。
だが、本気で彼の胸を叩くのではなく、顔を隠すことが目的のようで、かなり手加減しており、それをヨシマサも分かっているのか、いつの間にか、彼女を優しく抱きしめていた。
「それで、面倒見がいいのですね」
そんな二人の仲睦まじい姿を見ながらシモーヌがそう言うと、カレンはまだ少し赤い顔を彼女の方に向けた。その一瞬前に、ヨシマサと一瞬、見詰め合って。
「まぁ、そうかもしれないね。あたしが皆を食わしていかないといけなかったからね」
「カレン殿は、よくやっておられる」
「も、もう、ヨシマサってば、恥ずかしいだろ!」
そう言って一度、トンと彼の胸元を叩くと、彼女は真っ赤になった顔を手で隠した。
「いや、誠によくやっておられる」
それでもヨシマサがそう言うと、二人の傍にいた男達が口々にヒューと口笛を吹いて囃したてた。
「ほら、こうなるだろ! だから、止めてって言ってるのに!」
「だが、拙者は誠に心の底から思っておることを口にしただけで……」
「もう、だから、そういうのは分かってるってば! やだね、この人は!」
そう言いながら、真っ赤な顔でちょっとヨシマサをこずくカレンは、どう見ても嬉しそうにしか見えなかった。
ご夫婦なのかしら? いずれにしても、邪魔しちゃいけないわよね……。
そう思いながら、シモーヌがドアの方に向かおうとした時、こちらを見ていたマルクと目が合った。
『こっちです』
マルクの目がそう言った気がして、シモーヌは黙って彼に近付いた。
すぐ傍まで行くと、そっとその腰にマルクが手を遣り、人に見つからないように外に誘った。
そうされながら、シモーヌがチラリとカレン達を見ると、二人はまだシモーヌとマルクがこっそりそこを後にしようとしているのにも気付いていないようだった。
今のうち、ってことね。
そう心の中で呟き、マルクを見て小さく頷くと、二人は何も言わずにそこを後にしたのだった。