ジャンヌ・ダルクと女騎士
26章 フルール・ド・リス
百合の紋章
それから約1週間後、シモーヌはアルテュールと話した通り、コンピエーニュの町に入っていた。一足先に町に入ったジェイコブに貰った男物の服を着て、放蕩息子シモンに化けて。
確か前は、ここの裏口をウロウロしていたら、ジャンヌ・ド・バール嬢に会えたのよね。ちょっとあの反応には驚いたけど……。
百合、か……。確か、王家の紋章にも百合が使われていたのよね。マリア様の象徴でもあるというし、きっと乙女も、この花なら慰められるはず……。
先日、修道女姿でシスター・マルグリットと話をしていた時にピエール・コーション司教に睨まれたので、これ以上疑われないよう、念のために男装したシモーヌは、心の中でそう呟きながら百合の花を手に、見詰めていた。
fluer de lis(フルール・ド・リス)。フランス王家、とりわけブルボン王家では、百合をモチーフにした紋章を使っている。現在でも使っているのは、スペイン王家やルクセンブルグ大公家などがある。
宗教では、百合は聖三位一体の象徴で、特にカトリックでは三月二五日の受胎告知の日に、天使ガブリエルが白百合を携えて描かれている。
「あら、百合ですか?」
そんな百合を持ってぼうっとしているシモーヌにそう言う可愛い声がし、男装の彼女は思わず声の方を見た。
「あ……!」
その視線の先には、彼女より三歳位は年下の可愛い少女がいた。シモーヌと目が合った途端、顔を真っ赤にし、そんな声を上げて。
この子、誰なのかしら? まだ子供のようだけど……?
そう彼女が思った時だった。その少女がシモーヌに近付いて来たのは。
「あのっ! その百合、どなたかに差し上げられるのでしょうか?」
「ええっと……」
「ひょっとして、恋人さんに、ですか?」
その言葉に、思わず先日亡くなったバートの姿を思い出し、ドキリとするシモーヌ。
「あ……やっぱり、そうなのですね……」
少女が肩を落としながらそう言うと、シモーヌは首を横に振った。
「いや……私には、そのような者はおらぬ」
「そ、そうなのですか!」
出来るだけ低い声でそう言うシモーヌに、少女は男にしてはその声が高いということにも気付かず、ぱっと顔を輝かせた。今にも抱き着いてきそうな表情で。
な、何、この子……? 何だかキラキラした瞳(め)で見つめられている気がするんだけど、私、何かした……? 何もしてないわよね? でもまぁ、とにかく、抱きつかれてしまうと、男装してるってことがバレちゃうから、離れていないと!
そう心の中で呟いたシモーヌが、苦笑しながら少女と距離をとると、避けられたと思ったのか、少女は悲しげな表情になった。
確か前は、ここの裏口をウロウロしていたら、ジャンヌ・ド・バール嬢に会えたのよね。ちょっとあの反応には驚いたけど……。
百合、か……。確か、王家の紋章にも百合が使われていたのよね。マリア様の象徴でもあるというし、きっと乙女も、この花なら慰められるはず……。
先日、修道女姿でシスター・マルグリットと話をしていた時にピエール・コーション司教に睨まれたので、これ以上疑われないよう、念のために男装したシモーヌは、心の中でそう呟きながら百合の花を手に、見詰めていた。
fluer de lis(フルール・ド・リス)。フランス王家、とりわけブルボン王家では、百合をモチーフにした紋章を使っている。現在でも使っているのは、スペイン王家やルクセンブルグ大公家などがある。
宗教では、百合は聖三位一体の象徴で、特にカトリックでは三月二五日の受胎告知の日に、天使ガブリエルが白百合を携えて描かれている。
「あら、百合ですか?」
そんな百合を持ってぼうっとしているシモーヌにそう言う可愛い声がし、男装の彼女は思わず声の方を見た。
「あ……!」
その視線の先には、彼女より三歳位は年下の可愛い少女がいた。シモーヌと目が合った途端、顔を真っ赤にし、そんな声を上げて。
この子、誰なのかしら? まだ子供のようだけど……?
そう彼女が思った時だった。その少女がシモーヌに近付いて来たのは。
「あのっ! その百合、どなたかに差し上げられるのでしょうか?」
「ええっと……」
「ひょっとして、恋人さんに、ですか?」
その言葉に、思わず先日亡くなったバートの姿を思い出し、ドキリとするシモーヌ。
「あ……やっぱり、そうなのですね……」
少女が肩を落としながらそう言うと、シモーヌは首を横に振った。
「いや……私には、そのような者はおらぬ」
「そ、そうなのですか!」
出来るだけ低い声でそう言うシモーヌに、少女は男にしてはその声が高いということにも気付かず、ぱっと顔を輝かせた。今にも抱き着いてきそうな表情で。
な、何、この子……? 何だかキラキラした瞳(め)で見つめられている気がするんだけど、私、何かした……? 何もしてないわよね? でもまぁ、とにかく、抱きつかれてしまうと、男装してるってことがバレちゃうから、離れていないと!
そう心の中で呟いたシモーヌが、苦笑しながら少女と距離をとると、避けられたと思ったのか、少女は悲しげな表情になった。