ジャンヌ・ダルクと女騎士
一目惚れ
「不満というか、礼儀知らずであろう。こんな所で、着いて早々倒れるとは、先が思いやられる。なぁ、ピエール?」
そう言って父が息子を振り返ると、彼は何も答えずにただ、マルグリットの世話をしているシモーヌを見つめていた。
「もう一目惚れしおったか!」
それを見た父親が、そう言って顔をしかめた時だった。マルグリットがシモーヌの制止を振り切って、ゆっくり立ち上がったのは。
「失礼はお詫び致します。ですが……この子は私と違い、健康そのものですので、この様な不愉快な思いはさせないと思います。それと、私のことですが、前の夫はルイでした。今のシャルル七世陛下の兄で、当時は彼が皇太子でした」
そう言うと、マルグリットは胸元に下げていたペンダントを見せた。それは、青地に百合の紋章が入った、とても美しいものだった。
「ほう……それが王家の印ですか?」
「はい。ルイが形見として持っていろと渡してくれた品です」
「ほほう。ですが、今の王が誰かはご存知無いようですな?」
男はそう言うと、意地の悪い笑みを浮かべた。
「トロワ協定により、フランス王はイギリス国王が兼任すると決められたはず。なので、元は王家の紋章といえど、今はただのよく出来た飾りでしかないですな」
「な、何と畏れ多いことを!」
そう言うと、マルグリットは青い顔で、近くにあったソファに倒れ込んだ。
「母上!」
そう叫んでシモーヌは彼女を支えると、キッと男を睨みつけた。
「ならば、私はこのまま帰ればよろしいのでしょうか?」
疑問形ではあったが、そう尋ねる彼女の声は低く、眼光も鋭かった。
「フン! そこまでは言っておらん! 息子がそなたのことを気に入ったようなのでな」
男がそう言って息子を振り返ると、彼は「フ、フン!」と父親と同じように鼻を鳴らしてむこうを向いた。耳まで真っ赤にして。
「では、居てもよいということでしょうか?」
シモーヌがまだ低めの声でそう尋ねると、男は苦笑しながら頷いた。
「まぁ、そういうことだな。部屋も上に用意しておる故、そこで休むのがよかろう。その弱った元王家の妻とやらもな」
男はそう言うと、踵(きびす)を返して上に上がって行ってしまった。
「母上、立てますか?」
その後ろ姿を睨みつけた後、シモーヌはそう言いながらマルグリットを支えて、ゆっくり彼女を立たせた。
「上に部屋があるそうですから、そこでゆっくり休みましょう」
そう言いながら、どこなのだろうと周囲を見回していると、まだ先程の所で自分をじっと見詰める金髪の少年と目が合った。
そう言って父が息子を振り返ると、彼は何も答えずにただ、マルグリットの世話をしているシモーヌを見つめていた。
「もう一目惚れしおったか!」
それを見た父親が、そう言って顔をしかめた時だった。マルグリットがシモーヌの制止を振り切って、ゆっくり立ち上がったのは。
「失礼はお詫び致します。ですが……この子は私と違い、健康そのものですので、この様な不愉快な思いはさせないと思います。それと、私のことですが、前の夫はルイでした。今のシャルル七世陛下の兄で、当時は彼が皇太子でした」
そう言うと、マルグリットは胸元に下げていたペンダントを見せた。それは、青地に百合の紋章が入った、とても美しいものだった。
「ほう……それが王家の印ですか?」
「はい。ルイが形見として持っていろと渡してくれた品です」
「ほほう。ですが、今の王が誰かはご存知無いようですな?」
男はそう言うと、意地の悪い笑みを浮かべた。
「トロワ協定により、フランス王はイギリス国王が兼任すると決められたはず。なので、元は王家の紋章といえど、今はただのよく出来た飾りでしかないですな」
「な、何と畏れ多いことを!」
そう言うと、マルグリットは青い顔で、近くにあったソファに倒れ込んだ。
「母上!」
そう叫んでシモーヌは彼女を支えると、キッと男を睨みつけた。
「ならば、私はこのまま帰ればよろしいのでしょうか?」
疑問形ではあったが、そう尋ねる彼女の声は低く、眼光も鋭かった。
「フン! そこまでは言っておらん! 息子がそなたのことを気に入ったようなのでな」
男がそう言って息子を振り返ると、彼は「フ、フン!」と父親と同じように鼻を鳴らしてむこうを向いた。耳まで真っ赤にして。
「では、居てもよいということでしょうか?」
シモーヌがまだ低めの声でそう尋ねると、男は苦笑しながら頷いた。
「まぁ、そういうことだな。部屋も上に用意しておる故、そこで休むのがよかろう。その弱った元王家の妻とやらもな」
男はそう言うと、踵(きびす)を返して上に上がって行ってしまった。
「母上、立てますか?」
その後ろ姿を睨みつけた後、シモーヌはそう言いながらマルグリットを支えて、ゆっくり彼女を立たせた。
「上に部屋があるそうですから、そこでゆっくり休みましょう」
そう言いながら、どこなのだろうと周囲を見回していると、まだ先程の所で自分をじっと見詰める金髪の少年と目が合った。