ジャンヌ・ダルクと女騎士

先に逝った者へ

「ジャクリーヌ、マルグリット、ラ・イール、乙女の異端の汚名は晴らされたぞ」
　王都パリに凱旋するシャルル７世を迎えるべく、部下と共に整列しながら、かなり白髪が多くなったアルテュール・ド・リッシモンは、小さくそう呟いた。
　その頃、密かに仕えていた東洋人のヨウジイ、後に修道士ジェイコブとなった男も、既にこの世にはいなかった。
　多くの者が生き急ぎすぎた……。だが、皆、ゆっくり安心して休んでくれ。私もじきにそちらに行くからな……。
　そう思いながら空を仰いだアルテュールは、目の前を悠然と歩いて来るシャルルを見た。
　もう以前のように周囲を疑い、落ち着きのない目で人を見た男はそこにはおらず、フランス王の風格や威厳を持ち、アルテュールをはじめとした臣下を信頼する男がそこに居た。

　――それから約３８０年後の１８６９年、オルレアンの司教デュバン・ルーはジャンヌ・ダルクを列聖として申請した。
　実際彼女が列聖になったのは、それから更に５０年程先の１９２０年５月１６日ベネディクトゥス15世によって、だが、これには英雄を必要としたナポレオンの存在が欠かせないと言われている。
　ナポレオンの意図がどうであれ、彼女の名誉は回復され、現在ではカトリックの聖人でかつフランスの救国の英雄として、有名になっている。彼女自身の思惑とは異なるかもしれないが。
　ただ１つ、彼女の思うところは分かっている。
「フランスよ、永遠なれ。そして、神の御加護も永遠なれ――」

　＜終わり＞