ジャンヌ・ダルクと女騎士
11章 リッシモン大元帥
お告げ
その頃、近くの民宿の部屋に戻ったバートは、粗末な暖炉の傍で溜息をついていた。
「お告げ、なぁ……」
それを聞きながら、シモーヌは彼の上着に軽くブラシをかけ、コートかけにかけた。
「確かに意外でしたし、一瞬、どう対処しようか戸惑いましたが、戦場に出るということは陛下のお近くに行く機会が増えるということ。そう考えると、かえって良かったのかもしれませんよ」
「そんなノンキな! もしあの子の身に何かあったら、どうするつもりなんだ? 俺の首1つで収まる問題じゃないだろう?」
「ええ。お会いになって頂くまでは、何としても生き延びて頂かないと困ります。ですが、一介の農民の娘が、紹介状を持って行ったからといって、すぐに守備隊の最前線に配属されると思いますか?」
「………」
これにはバートもすぐに言葉が出て来ず、シモーヌを見た。
「つまり、当分の間、あのお嬢ちゃんの身柄は安全ということか?」
「敵の砲弾の前に出ることはないと思います。ですが、辺境の守備隊といえど、いるのは荒くれ者の男性ばかり。ある程度大事にして頂かないと、危ないとは思います」
顎に手を遣り、何かを考える様子でそう言うシモーヌに、バートは苦笑した。
「よく言うぜ。自分だって、一人であんな酒場にやって来たくせに」
「あ、あれは、ヨウジイを通じて、マスターに話をしてもらっていたので、大丈夫と踏んでのことです。それに、私は、剣も馬術も一通りたしなんでますから、あの方とは違いますし」
その言葉に、バートはやれやれ……とでも言いたげな表情で苦笑した。
「だが、ジョルジュのことでモメただろう? 自信を持つのはいいことだが、男を甘く見過ぎると痛い目を見るぞ。戦場のことだって、そうだ」
そう言うと、彼はシャツを脱いで、包帯を取った。
立派な筋肉の下の肋骨を触ってみて、様子を見ているその彼に、シモーヌは心配そうに尋ねた。
「もう大丈夫なんですか?」
「ああ。何とかな。普通の生活をする分には、大丈夫だろう」
そう言うと、彼は上半身裸のまま、近付いて来たシモーヌの腕をとって、抱きしめた。
「試してみるか?」
「又ですか?」
そう言って顔を赤くしながらも、シモーヌは抵抗しなかった。
「嫌か?」
「そうじゃないですが、今はもう少し策を練った方がいいのではないかと思っただけです。守備隊長宛の手紙も書かないといけませんし……」
赤い顔のまま、顔を背けるシモーヌを、バートはそっと離した。
「そういえば、そう言ってたな。一体、どんな手紙を書くつもりだ? まさか、陛下と同じ血筋だなどと……」
「それらしきことは書くつもりです。一度で、しかも書状だけで信用してもらえるとは思いませんが」
「まぁ、そうだろうな」
そう言うと、バートは頭を掻いた。
「このご時世だ。何があってもおかしくないとは思うが、いきなり田舎の農家の娘が、実は王族の娘ですって言ってきても、相手にはしないだろう」
「ですよね。まぁ、それでも時間稼ぎにはなると思いますが」
「時間稼ぎ? まさか、お前の兄さんが来るのか?」
「それは、流石に無いです」
シモーヌは苦笑しながらそう言うと、溜息をついた。
「宮廷の動きのことを少しお話しないといけませんね」
「ややこしい話なら、遠慮したいんだが?」
「でも、もう私と関わってしまいましたよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらシモーヌがそう言うと、バートは息を吐いた。
「分かった、分かった! 聞くよ!」
「では、これを。そのままでは、風邪をひいてしまいます」
シモーヌがそう言いながら粗末なガウンを差し出すと、彼は素直にそれを羽織り、暖炉の傍に座った。
「では、まず、ご両親の説得を頑張って下さい。私達は、これで……」
そう言うと、ジャンヌとバートは軽く礼をして、その場を後にしたのだった。
「お告げ、なぁ……」
それを聞きながら、シモーヌは彼の上着に軽くブラシをかけ、コートかけにかけた。
「確かに意外でしたし、一瞬、どう対処しようか戸惑いましたが、戦場に出るということは陛下のお近くに行く機会が増えるということ。そう考えると、かえって良かったのかもしれませんよ」
「そんなノンキな! もしあの子の身に何かあったら、どうするつもりなんだ? 俺の首1つで収まる問題じゃないだろう?」
「ええ。お会いになって頂くまでは、何としても生き延びて頂かないと困ります。ですが、一介の農民の娘が、紹介状を持って行ったからといって、すぐに守備隊の最前線に配属されると思いますか?」
「………」
これにはバートもすぐに言葉が出て来ず、シモーヌを見た。
「つまり、当分の間、あのお嬢ちゃんの身柄は安全ということか?」
「敵の砲弾の前に出ることはないと思います。ですが、辺境の守備隊といえど、いるのは荒くれ者の男性ばかり。ある程度大事にして頂かないと、危ないとは思います」
顎に手を遣り、何かを考える様子でそう言うシモーヌに、バートは苦笑した。
「よく言うぜ。自分だって、一人であんな酒場にやって来たくせに」
「あ、あれは、ヨウジイを通じて、マスターに話をしてもらっていたので、大丈夫と踏んでのことです。それに、私は、剣も馬術も一通りたしなんでますから、あの方とは違いますし」
その言葉に、バートはやれやれ……とでも言いたげな表情で苦笑した。
「だが、ジョルジュのことでモメただろう? 自信を持つのはいいことだが、男を甘く見過ぎると痛い目を見るぞ。戦場のことだって、そうだ」
そう言うと、彼はシャツを脱いで、包帯を取った。
立派な筋肉の下の肋骨を触ってみて、様子を見ているその彼に、シモーヌは心配そうに尋ねた。
「もう大丈夫なんですか?」
「ああ。何とかな。普通の生活をする分には、大丈夫だろう」
そう言うと、彼は上半身裸のまま、近付いて来たシモーヌの腕をとって、抱きしめた。
「試してみるか?」
「又ですか?」
そう言って顔を赤くしながらも、シモーヌは抵抗しなかった。
「嫌か?」
「そうじゃないですが、今はもう少し策を練った方がいいのではないかと思っただけです。守備隊長宛の手紙も書かないといけませんし……」
赤い顔のまま、顔を背けるシモーヌを、バートはそっと離した。
「そういえば、そう言ってたな。一体、どんな手紙を書くつもりだ? まさか、陛下と同じ血筋だなどと……」
「それらしきことは書くつもりです。一度で、しかも書状だけで信用してもらえるとは思いませんが」
「まぁ、そうだろうな」
そう言うと、バートは頭を掻いた。
「このご時世だ。何があってもおかしくないとは思うが、いきなり田舎の農家の娘が、実は王族の娘ですって言ってきても、相手にはしないだろう」
「ですよね。まぁ、それでも時間稼ぎにはなると思いますが」
「時間稼ぎ? まさか、お前の兄さんが来るのか?」
「それは、流石に無いです」
シモーヌは苦笑しながらそう言うと、溜息をついた。
「宮廷の動きのことを少しお話しないといけませんね」
「ややこしい話なら、遠慮したいんだが?」
「でも、もう私と関わってしまいましたよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらシモーヌがそう言うと、バートは息を吐いた。
「分かった、分かった! 聞くよ!」
「では、これを。そのままでは、風邪をひいてしまいます」
シモーヌがそう言いながら粗末なガウンを差し出すと、彼は素直にそれを羽織り、暖炉の傍に座った。
「では、まず、ご両親の説得を頑張って下さい。私達は、これで……」
そう言うと、ジャンヌとバートは軽く礼をして、その場を後にしたのだった。