ジャンヌ・ダルクと女騎士
14章 シャルル王太子
ひねくれた王太子
「例の乙女とやらは、どうなっている? もうすぐ到着するのか?」
その頃、彼らの目的地、シノンの町はずれの駐屯地では、一番豪華なテントの中で、金髪の男がそう言いながら尋ねていた。
「ヴォークルールを出たとの報告は受けておりますので、もう数日で到着するかと」
「ほう。戦地になっている所を避けている割には、速いな」
「乙女が急いでいるようです。もう一日だけで半分近くの行程は過ぎたとか。ただ、それからが本当に戦場となっている所を通らねばならぬ故、一日目のような強行軍にはならないかと」
「だろうな。にしても、まことに余の前に辿り着ければ、たいしたものよ」
そう言うと、金髪に髪より少し濃い色の髭の男は、口の端を少し歪めて笑った。
国王という立場からか、それとも母に不倫の噂があったからか、彼はフランス国王という立場にもかかわらず、そんな笑い方しか出来なかった。
育った環境もあるのだろうが、先日までリッシモンが少し親しくなった臣下を排除したこともあり、他人に対して心を開けなくなったというのもあったのかもしれない。
現在は、そのリッシモンも失脚し、今はその彼を追い落したラ・トレムイユが彼の側近として傍におり、彼自身も彼を信用しているのに、未だそういう笑いしか出来ずにいた。
「もし、ここまでまことに辿りつけたならば、その時に又報告せよ」
「はっ!」
若い侍従がそう返事をしてその場を後にすると、シャルル国王の傍に控えていた男が、すっと彼に近寄った。黒髪に白い物が混ざってきているが、普段、王宮ではそれをカツラで隠していた男。そして、そんな白髪よりも鋭く光る瞳が、冷たい感じを印象付けていた。
「陛下、もしお気になるようでございましたら、辿りつく前にその娘だけ片づけるという手もございますが……」
「今はよい。会うてみるだけ会うてみたいのでな」
「かしこまりました」
ラ・トレムイユはそう答えると後ろに下がった。
「ふ……今は、だがな」
それを見ずにシャルルはそう言うと、ニヤリとした。
結局、ジャンヌがシャルルのいるシノンに着いたのは、十一日後のことだった。
車も無い時代、イギリスの支配下にある街や橋を避けた割には、速い行軍だった。
ジャンヌからは何度もシャルルに対して手紙が送られていたが、それにはどれも「王太子様」と書かれ、それも既に国王を名乗っていたシャルルを不機嫌にしていた。
「そうか。着いたか。思ったよりも速かったな」
ヴィエンヌ河沿いの尖った屋根の1つの下で、河を眺めながらシャルルがそう言うと、小柄な銀髪のかつらをかぶった男は、彼に尋ねた。
「お会いになられますか?」
「ああ。お前もそのつもりなのだろう? そのかつらを被っているということは」
「高貴なお方にお目通りする時は、つけております」
「余と会っている時でもつけておらぬ時があるぞ?」
「公式の場ではつけております」
「ふん、まぁ、いい」
彼はそう言うと、口の端を歪めて笑うと、階下への階段を降り始めた。
「まぁ、この辺りでよいか」
階下の大広間に降りると、彼はそう言いながら玉座から下りて来た。
「陛下?」
近くにいた貴族が驚くと、彼はにやりと笑った。
「ヴォークルールから来た小娘が、まことに噂に聞く様なお告げの乙女かどうか、ここで見てやるのだ」
その言葉に、彼と同列にいた貴族達は顔を見合わせた。
「誰か他の者を玉座に座らせるのですか?」
「いや、誰も。余は忙しいことにして、ここで様子を見てやるだけだ」
その言葉に、貴族達は再び顔を見合わせた。
「おられないことになさるのですな?」
「一応な。それでも、余のことが分かれば、その時は本物と認めてやってもよい」
絶対分かるわけがないと思いながら、彼がそう言った時、大広間のドアが開いた。
その頃、彼らの目的地、シノンの町はずれの駐屯地では、一番豪華なテントの中で、金髪の男がそう言いながら尋ねていた。
「ヴォークルールを出たとの報告は受けておりますので、もう数日で到着するかと」
「ほう。戦地になっている所を避けている割には、速いな」
「乙女が急いでいるようです。もう一日だけで半分近くの行程は過ぎたとか。ただ、それからが本当に戦場となっている所を通らねばならぬ故、一日目のような強行軍にはならないかと」
「だろうな。にしても、まことに余の前に辿り着ければ、たいしたものよ」
そう言うと、金髪に髪より少し濃い色の髭の男は、口の端を少し歪めて笑った。
国王という立場からか、それとも母に不倫の噂があったからか、彼はフランス国王という立場にもかかわらず、そんな笑い方しか出来なかった。
育った環境もあるのだろうが、先日までリッシモンが少し親しくなった臣下を排除したこともあり、他人に対して心を開けなくなったというのもあったのかもしれない。
現在は、そのリッシモンも失脚し、今はその彼を追い落したラ・トレムイユが彼の側近として傍におり、彼自身も彼を信用しているのに、未だそういう笑いしか出来ずにいた。
「もし、ここまでまことに辿りつけたならば、その時に又報告せよ」
「はっ!」
若い侍従がそう返事をしてその場を後にすると、シャルル国王の傍に控えていた男が、すっと彼に近寄った。黒髪に白い物が混ざってきているが、普段、王宮ではそれをカツラで隠していた男。そして、そんな白髪よりも鋭く光る瞳が、冷たい感じを印象付けていた。
「陛下、もしお気になるようでございましたら、辿りつく前にその娘だけ片づけるという手もございますが……」
「今はよい。会うてみるだけ会うてみたいのでな」
「かしこまりました」
ラ・トレムイユはそう答えると後ろに下がった。
「ふ……今は、だがな」
それを見ずにシャルルはそう言うと、ニヤリとした。
結局、ジャンヌがシャルルのいるシノンに着いたのは、十一日後のことだった。
車も無い時代、イギリスの支配下にある街や橋を避けた割には、速い行軍だった。
ジャンヌからは何度もシャルルに対して手紙が送られていたが、それにはどれも「王太子様」と書かれ、それも既に国王を名乗っていたシャルルを不機嫌にしていた。
「そうか。着いたか。思ったよりも速かったな」
ヴィエンヌ河沿いの尖った屋根の1つの下で、河を眺めながらシャルルがそう言うと、小柄な銀髪のかつらをかぶった男は、彼に尋ねた。
「お会いになられますか?」
「ああ。お前もそのつもりなのだろう? そのかつらを被っているということは」
「高貴なお方にお目通りする時は、つけております」
「余と会っている時でもつけておらぬ時があるぞ?」
「公式の場ではつけております」
「ふん、まぁ、いい」
彼はそう言うと、口の端を歪めて笑うと、階下への階段を降り始めた。
「まぁ、この辺りでよいか」
階下の大広間に降りると、彼はそう言いながら玉座から下りて来た。
「陛下?」
近くにいた貴族が驚くと、彼はにやりと笑った。
「ヴォークルールから来た小娘が、まことに噂に聞く様なお告げの乙女かどうか、ここで見てやるのだ」
その言葉に、彼と同列にいた貴族達は顔を見合わせた。
「誰か他の者を玉座に座らせるのですか?」
「いや、誰も。余は忙しいことにして、ここで様子を見てやるだけだ」
その言葉に、貴族達は再び顔を見合わせた。
「おられないことになさるのですな?」
「一応な。それでも、余のことが分かれば、その時は本物と認めてやってもよい」
絶対分かるわけがないと思いながら、彼がそう言った時、大広間のドアが開いた。