蒼穹‐sora‐
花純がいる。



「ん……?」



何処かで見た事のある光景。そう思えば、花純が誰かに向かって手を大きく振った。



花純の視線の先は。



「え…。僕…?」



≪ごめーん。待った?≫




≪ううん。わたしもさっき来たばっかだよ≫




僕と花純の会話。まるで、映画でも見てるみたいだ。




≪じゃ、行こっか?≫




≪うん≫





思い出した。これは、あの日だ。花純が、僕の前からいなくなった、あの日だ。




今でも、覚えてる。明確に。鮮明に。




「行くなっ……!!行ったら…!」



行ったら、逝ってしまう。彼女が、最愛の彼女が。僕の前から、逝ってしまう。



この頃の僕は、知らなかっただけなんだ。大切なものを失った時の、反動を。苦しみを。痛みを。



「知らなかっただけだし……」



苦し紛れに呟いて、自嘲する。



この映画は、きっとあの日をそのまま上映するんだ。


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