蒼穹‐sora‐
「……? はい?」



僕は、不思議に思って聞き返した。



というか、もうここから逃げたい……。



「花純……さん? 私、知ってますよ」



彼女が発した言葉に、僕は目を見開いた。




「え?」




「ここで話すのもなんですし、近くの喫茶店で話しませんか?」




彼女はそう言うと、さっき僕が投げ捨てた傘のところまで行き、拾って僕のところに持ってきてくれた。




「はい」




と微笑んで手渡してくれる彼女の顔は、花純にそっくりで。





「花純っ……!」




僕は、無意識のうちに彼女を強く抱き締めていた。



「わっ……」




「花純っ、花純っ、花純っ、花純っ……」




花純を隙間なく抱き締める。




「あ、のっ……」




「か、っすみ……」




言いたい事が、たくさんあった。




でも、その言葉なんて、花純を前にしたら全て忘れてしまって。




ただ、花純を抱き締めた。




硬直していた花純も、だんだん力が抜けてきていて。




「……花純さんは、もういない」




彼女が、少し低い声でそう言った。




同時に、僕はハッとした。




……この子は、花純じゃない。




花純は、もう死んだんだ。





急いで彼女を離し、「すみませんっ!」と腰を折って謝る。






あぁ、僕は何をやってるんだろう。






一日に同じ女性に。




警察行きでもおかしくない。





というか、恥ずかしすぎる……。





「あっ、いえ、大丈夫ですよ。顔を上げてください」





彼女がおどおどしているのが、見なくてもわかる。




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