蒼穹‐sora‐

俯きながら、僕は花純に似た女性の一歩後ろをついて歩く。



「あの・・・」



遠慮気味に、彼女が僕の方を振り向く。




「ここで・・・、いいですか?」

「あ・・・、はい・・・」



彼女が指さした喫茶店は、花純と僕がよく通っていた店。




「っ・・・」




目頭が熱くなるのが分かった。



ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ。



ここで、泣いたら・・・。



わざと避けて通って来た店なのに・・・。どうしてよりによって、ここなんだ。



カランとドアに吊るしてあったベルが鳴るのを聞きながら、僕は彼女の後に続いた。




「いらっしゃいま・・・あ」




顔馴染みになったマスターが、僕の顔を見て一瞬だけ硬直する。



軽く会釈を返すと、哀しそうな淋しそうな笑顔を張り付けたマスターが、いつも僕と花純が座っていたカウンター席へと、僕達を誘導した。


< 7 / 43 >

この作品をシェア

pagetop