蒼穹‐sora‐
俯きながら、僕は花純に似た女性の一歩後ろをついて歩く。
「あの・・・」
遠慮気味に、彼女が僕の方を振り向く。
「ここで・・・、いいですか?」
「あ・・・、はい・・・」
彼女が指さした喫茶店は、花純と僕がよく通っていた店。
「っ・・・」
目頭が熱くなるのが分かった。
ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ。
ここで、泣いたら・・・。
わざと避けて通って来た店なのに・・・。どうしてよりによって、ここなんだ。
カランとドアに吊るしてあったベルが鳴るのを聞きながら、僕は彼女の後に続いた。
「いらっしゃいま・・・あ」
顔馴染みになったマスターが、僕の顔を見て一瞬だけ硬直する。
軽く会釈を返すと、哀しそうな淋しそうな笑顔を張り付けたマスターが、いつも僕と花純が座っていたカウンター席へと、僕達を誘導した。