政略結婚が恋愛結婚に変わる時。
俺は書き終えた書類を瑞紀に見せて口を開く。

「悠河知哉《ゆうがともや》、だから。」

俺の言葉に瑞紀は控えめに、
「…知ってます。」
と言った。

あ、そ。

「呼び方は任せるよ、何でも良い。」

「はい。」

「この書類は仕事の帰りにでも俺が出しておくから。」

その言葉に、瑞紀は動きを止めた。

「…何。」

「いえ…」

それから。

「そう言えば、結納の時、君の隣にいた女の人、君の母親じゃ無いらしいね。」

一応、挨拶ぐらいは。

そう思って言った一言なのだが。

瑞紀は、怯えたような目を俺に向けて。

「…っ大丈夫ですから!」



いや、別にそこまで興味無いし。

「…それなら良いけど。」

俺がそう言うと、瑞紀は安心したように目を伏せた。


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