漆黒の闇に、偽りの華を
「今日は、絶対安全運転をします。」
あたしの目を見て、仔犬みたいな顔をする恭。
何だこの顔。
反則だ。
「絶対にスピード出さない?」
「ん。」
「何があっても安全運転?」
「ん。約束する。」
「……わかったよ。」
渋々承諾すると、恭が安心したような無邪気な顔で笑って見せる。
こういう恭の笑顔を見ると、胸がザワザワして熱くなる。
何かその顔に触れたいような、近付きたいような、そんな衝動に襲われる。
「じゃ、行きましょうか。」
そんな、恭の声で我に変えると、体の火照りだけが、あたしの中に残るんだ。
「ちゃんと掴まってて下さいね?」
恭がそう言うと、大きなエンジン音と共にバイクが動き出す。
恭が言った通り、昨夜送ってもらった時とは、スピードがまるで違う。
と言っても、あたしにとってはやっぱり速いんだけど、振り落とされそうな感覚がないだけ安心して乗っていられる。
「怖くない?」
「大丈夫。」
昨夜は余裕が無くて全く気付かなかったけど、恭の背中って意外と広いんだ。
恭と密着している所から、恭の体温を感じる。
そして、やっぱり安心する恭の香り。
心が解れていくような……そんな感覚。