漆黒の闇に、偽りの華を


「恭。よくもあたしという者がありながら……。」


彼女は恭の頬に手を置く。


「どういうつもりだ?せ……」






―――時間が止まる。




目の前の光景に、指先すら動かすことが出来ない。



彼女が恭の口にキスをしている……。



前に百合さんと太一のキスを見た時とはまるで違う。


見たくない。


でも、目を反らせない。


じわじわと、気持ちの悪い感情が沸き上がってくる。


苦しい。


悲しい。


嫌だ……。


やめてよ。


離れてよ。


そんな気持ちが胸の辺りを蝕んで、胸が締め付けられて苦しくなる。


気が付いたらあたしは、恭の腕を思い切り引っ張るように掴んでいた。


「ま……ひろ?」


恭が驚いたようにあたしの名前を呼ぶ。


そりゃ驚くよね。


あたしだって驚いてる。


まさか、こんなに自分が嫉妬丸出しになるなんて……。


こんな顔を見られたくなくて、恭の腕に顔を埋める。

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