漆黒の闇に、偽りの華を
恭は、持っていたフォークを置いて、椅子の背もたれに寄りかかる。
「親父はその時、そこに居るはずだったのに仕事で来られなくなったんです。
親父が居たら、母さんを守れたかも知れないのに……その……俺の親父は、強いんです……色々……。」
恭は、少し話辛そうに言葉を続ける。
「母さんは、何かあったら絶対に親父が守ってくれるっていつも言っていました。
信じていたんです。親父の事を。
でも親父は、母さんを守ってやることが出来なかった。」
どうしよう。
喉の奥が痺れて苦い。
目の前のコーヒーを飲もうとしても、指先が震えて動かない。
あたし、ひょっとして恭に大変な事を話させているんじゃないだろうか。
「俺は、親父みたいに大切な人を守れないなんて嫌だ。
それに、もう俺の為に誰かが犠牲になるのも嫌だ。
そんな事を思う俺に、姫なんかを作る資格なんてないんです。」
恭は話終えると、少し寂しそうに笑って見せる。
「だから、茉弘。
昨日聖也が言っていたケジメの件なんですけど……俺も前々から考えていたんです。
でも、茉弘と居ることが心地よくなってしまった自分がいて、ここまで先伸ばしにしてしまいました。」
恭は、真剣な眼差しであたしを見る。
「茉弘。俺が居る煌龍まで、来てくれてありがとう。
でも、ごめん。
もう一緒に居るわけにはいかない。
茉弘が居場所を失ってしまう事は分かってる。でも、煌龍が崩壊すれば、居場所を失う奴等が沢山居る。
煌龍の総長として、そんな事になるわけにはいかないんだ。」
恭は辛そうな顔をする。