漆黒の闇に、偽りの華を


「茉弘は、何でそんなに聞き分けがいいんだ……。」


俯いて唇を噛み締める恭。



そんな苦しそうな顔、しないで……。




あたしは、無意識に恭の胸に飛び込んでいた。


抱き締めて欲しいからじゃない。


抱き締めてあげたくて。



この時、生まれて始めて人を愛しいと思った。



この人が苦しまなくて済むのなら、あたしは何だってする。


そんな気持ちでいっぱいになった。



まだ恥ずかしくて、抱き締めるなんて到底出来ないけれど、


今はこうやって、この人の胸にしがみつく事しか出来ないけれど、


でも、どうか……




「笑って?」




あたしは、恭の顔を見上げ、ニカッと笑って見せる。


恭が釣られて笑ってくれたらいいなと思うから。

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