漆黒の闇に、偽りの華を



「びっくりしたね?大丈夫ですか?立てますか?」


そう言って男はあたしにゆっくりと近付いてきて、そっと手を差し出す。


男の背後から射すバイクのヘッドライトが、男を妙に妖艶に写し出し、思わず見とれてしまった。



さっきの太一ってのとは打って変わって、見た目は決して厳つくない。


柔らかそうな長めの黒髪を右側だけ耳にかけ、、目元には黒縁の眼鏡。


格好も至ってカジュアルだし。


髪の毛の間から小さなピアスが覗いてるけど、ナチュラルな感じで全然チャラくは感じさせない。


穏やかなオーラ全開の笑顔とルックスで、世に言うイケメンの部類ではあるんだろうと思う。


きっと、好きな人は好きな顔立ち。


まぁ、あたしにはちょっと頼りなく見えるけどね……。


とにもかくにも、太一と呼ばれる男よりは全然まし。


恐くはない!



この男はを無害と判断した私は、恐る恐るその男の手をとった。



「だ、大丈夫…。」


とは言ったものの、腰が立たない。


あたしが焦って男を見ると、男はふっと優しく目を細めて笑い、


「大丈夫ですよ。ゆっくりでいいから。恐かったね。」


そうあたしの頭を撫でながら、優しく諭してくれた。



なんだコレ。


不思議。


落ち着きを取り戻していく自分がいる。


あたしは大丈夫だって思えてくる。
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