漆黒の闇に、偽りの華を



依然として、あたしの頬に触れたままの手。



葛原に触れられた時は、すぐにでも振り払いたいほど嫌だったのに、今のあたしはどうしたんだろう。


恭の触れてる部分から伝わる熱が心地良い。


恭に見つめられると、心臓が大きく脈打つ。



恭が触れてる手の親指が、そっと動く。


優しくあたしの唇をなぞる。




「き……」





―――――ピロリンピロリン




恭のスマホの着信音に、二人して飛び上がる。


恭はあたしから手を離し、一気に二人の距離が広がる。


「はい。……うん。大丈夫。見付けた。……うん。無事だから。今戻る。」


そう言って恭は通話を切る。


そして、またあたしに向き直る。


「茉弘。戻りましょう?みんな心配してます。」


優しく微笑みながら、あたしに左手を差し出す恭。


あたしは、その手を取るかどうか迷った。


でも……


「……ん。」


あたしは、素直に恭の手を取る。






倉庫に着くまで、恭とはほとんど言葉を交わさなかった。


明らかにおかしな口の怪我についても何も聞かず、恭はただただあたしの手を離す事なく隣を歩いた。


倉庫までの道のり、手を離すタイミングなら沢山あった。


でも、あたしは離さなかったんだ。




恭と繋がった手から伝わる熱と、あたしの高鳴る心臓の音が、妙に心地が良かったから……。



< 82 / 200 >

この作品をシェア

pagetop