漆黒の闇に、偽りの華を
依然として、あたしの頬に触れたままの手。
葛原に触れられた時は、すぐにでも振り払いたいほど嫌だったのに、今のあたしはどうしたんだろう。
恭の触れてる部分から伝わる熱が心地良い。
恭に見つめられると、心臓が大きく脈打つ。
恭が触れてる手の親指が、そっと動く。
優しくあたしの唇をなぞる。
「き……」
―――――ピロリンピロリン
恭のスマホの着信音に、二人して飛び上がる。
恭はあたしから手を離し、一気に二人の距離が広がる。
「はい。……うん。大丈夫。見付けた。……うん。無事だから。今戻る。」
そう言って恭は通話を切る。
そして、またあたしに向き直る。
「茉弘。戻りましょう?みんな心配してます。」
優しく微笑みながら、あたしに左手を差し出す恭。
あたしは、その手を取るかどうか迷った。
でも……
「……ん。」
あたしは、素直に恭の手を取る。
倉庫に着くまで、恭とはほとんど言葉を交わさなかった。
明らかにおかしな口の怪我についても何も聞かず、恭はただただあたしの手を離す事なく隣を歩いた。
倉庫までの道のり、手を離すタイミングなら沢山あった。
でも、あたしは離さなかったんだ。
恭と繋がった手から伝わる熱と、あたしの高鳴る心臓の音が、妙に心地が良かったから……。