季節外れの花
「あのね、一年生の時に話しかけてくれたのが須田君だったんだ。」

ぽつぽつと話し出す、奈緒。

今にも波の音に消されそうな微かな声。

その声が、なかったことにならないように

私たちは耳を傾ける。

「私、誰かに話しかけなきゃって思ってたの。でも、なんだか緊張して。無理だったの。その時、笑顔で話しかけてくれたの。
ただ、嬉しかった。最初は、友達だった。だけど、段々大切な人にかわっていったの。」

私も、中学生の時一番最初に

話しかけてくれたのが、京介だった。

あの時の笑顔は、まだ覚えている。

『笹川さん、今日俺と日直だから。よろしくね。』

暖かい笑顔だった。

『あ、はい。よろしくお願いします。』

最初のイメージは、

爽やかで笑顔がかわいい人。

それだけだった。

でも、知れば知るほどもっと良いところが

見つかっていった。

一途で、皆の笑顔が好き。

自分より、人が幸せになってほしい。

そう思っている。

だから、皆が笑顔だと自分も笑顔になる。

爽やかに見えたのは、少しだけ遠くで皆の

ことを見ているから。

爽やかとはちょっと違うけど、それが京介

だって知れた。

「私、こんな想いになったの初めてなの。だから、大切にしたい。頑張ろうって思うの。」

皆、真剣な眼差しで奈緒の言葉を聞く。

ズキッ

なのに、私は一人で傷ついてる。

応援しなきゃ。だめだよ?

応援する。これは、私が決めたこと。

出した答え。

なのになのに、胸が痛い。
『それじゃねーだろ。お前が言いたいこ と。ちゃんと、前見ろ。』

何故か、心の奥から太陽の声。

熱くなる。胸に刺さった何かは、

まだ取れてないみたいに

痛い。熱い。苦しい。
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