季節外れの花
太陽が引っ越すと知ったのは、

奈緒に真実を話す前。

『ごめん……。』

太陽が寂しげに呟いた、あのあと。

今いるここは太陽がいなくなったあと。

それは、真実を言ったあとの帰り道。

「もう、ここには帰ってこないかもしれないの。ごめんね、茜ちゃん。今まで、本当にありがとうね。」

私の肩を叩いてきたのは、

太陽のおかあさんだった。

いつまでも、若々しい太陽のおかあさん。

「太陽は?」

「あの子はね。もう行っちゃったの色々準備があるからね。ごめんね、急に決まったことだから。本当に、ごめんね。」

太陽が引っ越し先の長野に行ったのは、

あの日のすぐ後だったらしい。

もう、帰ってこないかもしれないの。

頭の中で繰り返してる。

あぁ、

私は太陽にありがとうも言えなかったんだ。

太陽に聞いてほしかったのに。

ただ、聞いてほしかっただけなのに。

お願い 戻ってきて

お願い

その言葉は、頭の中で廻るだけで。

無力なため息となって、

一部分だけが外に出てきた。
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