ファインダー越しの恋
キーンコーンカーンコーン・・・。
会社近くの学校のチャイムが鳴り、我に返った。

「ヤバッ!遅刻」
私はカバンをギュッと掴むと、会社に走って行った。

…何とか入社式には間に合った。
入社式が終わると、今日から働くオフィスに向かった。

オフィスの中は、なんだか慌ただしかった。
締め切りに追われている担当者があちこち移動していたり、違う場所では、ちょっとした会議がしていたり。

『雑誌編集課』
今日からここが私の働くオフィス。

女性誌も、男性誌も両方扱っている。主に、企画課から上がってきた企画を編集し、仕上げをしていくところ。

ここで、一冊の雑誌が出来あがる。結構重要な部署だったりする。

…本当は、小説とか、単行本を扱う部署に行きたかったのだけれど、そう簡単に、好きな部署に行けるはずもなく。

一発で、出版社に入社できた事だけでも、ラッキーだと思わなければならないくらい、今は、就職難なのだから。


「初めまして、今日から働く事になりました柏木桜子です」
私の挨拶に、慌ただしかった社員の手が止まり、私を見て、拍手してくれた。

「ようこそ、編集課課長の清水正和です」
「よろしくお願いします」

とても優しそうな上司にホッと胸を撫で下ろす。

…いや、それは一瞬の出来事でしかなかった。

「おい!安藤!いつまでかかってんだ?!締切明日だぞ!」
清水課長は普段はおっとりしているが、仕事になると、鬼課長になる。

…相当怖い上司だと言う事が分かった。

「気にしない、気にしない。仕事、始めるわよ」
クスクスと笑いながら、私の指導役の先輩、中村和美(27)が言った。

「…私、ここでやっていけるか、心配になってきました」
思わず、本音がポロリ。
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