猫の恩返し
「───っ、げほっ。げほげほ」


「大丈夫か?」


「………大…丈夫」


突如咳き込んだ原因が分からず、ナツが落ち着くのただ見ているしか出来ない

息をする度苦痛に顔を歪め、見ているこっちが痛くなりそうだ

数回苦しそうに呼吸をした後、ゆっくり深呼吸をして『ほー』と息を吐いた


「風邪か?」


「ん?大丈夫だよ?」


「猫って、風邪薬とか飲め───」


「大丈夫だって!」


思いの外強い口調で遮られ、驚いてナツを見る


「あ………、ゴメン…。ホントに…大丈夫だから…」


「そうか…。夜、行けるのか?」


女の『大丈夫』なんて、本当に大丈夫だった試しがないが、本人がそれ以上触れてほしくなさそうなので、話を変えた


「───行く」


真剣な眼差しに、思わず視線を外す

たかが『夜景』


そんなの、いつでも行けるのに───


腑に落ちない気持ちを抱えながら、炎天下の中、車を綺麗に洗車した
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