猫の恩返し
「ああ、遅くなって悪かったな。何もなかったか?」


「はい。特には何もないです」


下村も…何も知らなさそうだな…


今、ナツはどこに居るんだろう

昨日はどこで夜を明かしたんだろう


ナツのことを考えるだけで、心臓を直接掴まれたように苦しかった


「───任、小岩井主任?」


ハッと我に返る

また意識が違うところに飛んでたらしい


「あ…悪い。何かあったのか?」


怪訝な顔で俺を見る牧野に、苦笑いを浮かべた


「………あの、これ…。よろしくお願いします」


書類を机の上に置き、サッサと自分の席に帰る

普段と違う態度の牧野の背中を見つめ、彼女が席に着いたところで差し出された書類に視線を落とした


ん?


書類の一番上には、牧野の携帯電話の番号とメールアドレスが書かれた付箋が貼りついている
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