猫の恩返し
「あれ?やっぱり帰る?」


ほわんとした笑顔を浮かべた係長に頭を下げる


「来てすぐにすみません」


「いーよいーよ。ゆっくり休んで、明日出てこれそうだったら出てきて」


「はい。お先に失礼します」


「はいはい、お疲れー」


ショルダーベルトを首から通して斜め掛けにし、急いで職場を後にした



△▼△▼△▼



「───っは、ふっ…はぁ………」


電車に飛び乗り、自分の部屋までひたすら走り続けた

マンションに着いてからも、なかなか来ないエレベーターに業(ごう)を煮やし、階段を駆け上がってきた結果、玄関の前で動けなくなった


ドアに凭れ、ズルズルとその場に座り込む


「───くそっ」


後は、この部屋の鍵を開けるだけなのに…


恨みがましい顔でドアを睨み付けた

ほんの数十センチが遠い
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