猫の恩返し
「このクソ寒いのに、そんな薄っぺらい格好で何やってんだよ」


人のことは言えないが、セーターを羽織っただけの薄っぺらい格好で、丸太の柵に腰を下ろしている

急に居なくなったことへの心配、見つけた安堵、目の前に居るはずの彼女への不安

色んなものがごちゃ混ぜになって、何て言っていいのか分からない


「急に───居なくなんなよ………。心配、するだろ…」


「ごめん…なさ…い」


ようやく肩の力が抜け、寒さと足元の雪の冷たさに体が震えた

誰にも邪魔されることがないからか、柵の辺りになると積雪量が一段とすごい


「牧野も心配してた。帰るぞ」


腕を取ろうと、ナツに手を伸ばした瞬間


───その手は空を切った
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