猫の恩返し
崩れ落ちそうになる体に力を込めて、柵の中に入った

ナツが指した辺りに手を突っ込み、ひたすら掘り返す

雪の冷たさに、指先の感覚もすぐになくなってしまった

それでも、ナツをこの中から出してやらないといけない

何ヶ所か掘って、ようやく真っ白い中から黒く丸まった毛を見つけることが出来た


「ナツ!」


急いで引きずり出すと、俺の目を見て『にゃあ』と小さな声を上げる

そして───

ガハッと言った瞬間、俺の顔に何かが付いた


「ナ…ツ………?」


足元の白い雪が、ところどころ真っ赤に染まる


「おい………、ナツ…」


揺すっても、何の反応もない体


「ナツ…動けよ…。俺、まだ抱き締めてねーだろ。おい………ナツ…」


どんなに声を掛けても…


「頼むから返事してくれよ…。なあ、ナツ!」


どんなに抱き締めても…


「ナツ………ナツ…。ナツ!」


もう、声さえ聞けない


「うぁあああああ!」


しんしんと降る雪の中で、俺の泣き声だけが夜空に響いた
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