猫の恩返し
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「はぁ…」


スーパーでは、生魚や干物など見つけた瞬間に飛びかかりそうになって、取り押さえるのに必死だった

女の子の姿の割に力が強くて大変だったのもあったが、何より他人の目が気になって強気に出られなかったことが一番苦労したことだ

やっとのことでナツを魚売り場から引き離し、途中の本屋に寄って猫の本を買い、マンションに帰った頃にはもう日が傾いていた


「ナツ」


「ん?」


「お前、明日1日一人で留守番だからな」


煮干を両手いっぱいに掴んで、嬉しそうに頬張るナツに声を掛ける

今日仕事を休んだから、明日はきっと机が大変なことになっているだろう


「トーゴは?」


「俺は仕事」


「仕事…って、何?」


「こうやって、煮干食ってるだろ?」


「うん」


「それは金がないと買えないんだよ。だから、金をもらうために働くのが仕事なんだ」


「分かんない」


「分かんなくてもいーよ、別に」


とりあえず、明日…

明日1日だけでも乗り切って、少しずつこの生活に慣らしていけばいい

そう思っていた
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