猫の恩返し
「トーゴ!」


俺の姿を確認するなり勢いよく走りだし、俺の懐へ飛び込んできた

目からは涙がボロボロとこぼれ落ちている

頬に流れる涙を指先ですくい頭を撫でてやると、俺の腰に回した両手でギュッと服を握り締めた


「怖かったか?」


黙ったまま頷くナツ


「もう大丈夫だ」


何が大丈夫か分からない

どうやって説明するか、何を聞かれるのか分かっていない今、『大丈夫』なんて万に一つも言える状況ではなかった


下手したら、このままブタ箱行き…

それだけは何とか免れないと


「いきなり、男がいっぱい部屋に入って来た。私…何もしてないのに、いっぱい色んなこと聞かれてここに連れてこられた」


「そうか…。それは怖かったな。でも、俺が何とかするから…」


そうだ

弱気になっている場合じゃない

何とかしないと!


「イチャイチャしてるトコ、申し訳ないんだけどさ…」


開いたドアをコンコンとノックした人物を見て驚いた


「溝口!」


「久し振りだな」


廊下を確認してドアを閉めると、溝口がいたずらっぽい笑顔で俺達の傍に寄って来る
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