猫の恩返し
「いや…。そんなことは別にいいんだ…。俺のこと、おかしいと思ってくれて構わない。今、女子トイレにナツが居て…。で、トイレをしたけどその後が出来ないらしくて…。俺、男だから女子トイレに入るわけにもいかないし、ナツをそのままほっとくわけにもいかないし………。スマン!頼む!俺の代わりに、ナツのこと見てやってくれ!」


顔の前で両手を合わせ、腰を折ってお願いすると、頭上から溜息が聞こえる


「彼女さん…」


「え?」


「根掘り葉掘り聞いても、大丈夫ですよね?」


「それって…どういう…」


顔を上げると、真剣な表情の牧野と目が合った


「本人の口から、ちゃんとしたことを聞きたいんで。主任に事前確認しておこうと思って…」


腕を組んで右手を顎に持って行き、視線を少し斜め下にずらす

下から見上げられ、その態度に思わずドキッとした

恋愛対象に見ていなくても、女はやっぱり女なんだな…と、当たり前のことに気付かされる


「いいんですか?」


何も答えない俺を覗き込む牧野


「えっ…何が?!」


こんなことでキョドってしまう、俺の恋愛偏差値の低さが悲しい


「もぉっ!いいです!本人に直接聞きますから」


眉間に皺を寄せたまま、ズカズカと女子トイレに歩いていく牧野の後ろ姿を、ただ黙って見送るしか出来なかった
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