猫の恩返し
「ね、トーゴ。今日ね、琴美さんと一緒にお弁当作ってきたんだよ」


「は?弁当?」


普段、牧野が事務所で弁当を食っているところなんて、見たことがない

いつも財布を持って、下村と一緒に外食している


どういう風の吹き回しだ?


係長だけじゃなく、牧野もナツも…

皆、何を考えているのか分からない


「迷惑…だった?」


その一言で、ふと我に返った

泣きそうな表情で、俺の顔を見上げている


「ああ…悪い。ちょっと考え事してただけだから…。迷惑とか思ってないから、心配すんなって」


手を広げポンポンと頭を叩くと、顔を真っ赤にするナツ


何だよ、その反応


慰めてやったはずなのに、いきなり照れられるとこっちまで恥ずかしくなってくる


「お昼っ!」


「え?」


「一緒に食べようね!」


真っ赤な顔でそれだけ言うと、体を翻(ひるがえ)して事務所に戻っていった


………

何だよ、ホントに…

猫から人間に変わった時には羞恥心の欠片もなかったくせに、頭を軽くポンポンってしただけで赤くなるとか、一体どういうことだ!


牧野がナツに何を教えたのか、ナツが俺に何をしたいのか…

今の時点では何も分からない

ただ、ナツが確実に人間らしくなったこと

そして、そんなナツを『可愛い』と思ってしまう自分が居ること

それだけは、否定しようと思っても出来なかった
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