猫の恩返し
「すごい?」


目をキラキラさせるナツを見ていたら、素直に頷いていた


「食べて食べて!」


「手ぇ洗ってくるから、ちょっと待てって」


嬉しそうに笑顔を向けるナツを制し、ネクタイに手を掛け首から外す

シュルッという音を聞きながら、不意に頭に浮かんだ構図


これって、完全に同棲してるカップルじゃん


『お帰り』『ご飯出来てるよ』『おやすみ』等々………

頭の中に、デフォルメ化した俺とナツの仲睦まじいやり取り


ただ、相手は人間じゃないけど………


風呂場にある洗面台に、手を洗いに行く

つい一昨日まで一人だったこの部屋にやって来た黒い猫

1Kのこの狭いマンションに、ナツが居ることが未だに不思議でならない


これから先…どうすっかな…


手だけでなく顔も洗った

水を止め顔を上げると、備え付けの鏡にくたびれた俺が映っている


もう30、だもんな…


少しだけ翳(かげ)りの見え始めた自分の将来を考え、大きく溜息を吐いた
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