麗雪神話~炎の美青年~
ブンッ! と空気が唸り、鋭い切っ先が甲虫に向かう。

しかし甲虫の動きはすばしっこかった。

右に左にセレイアの連続攻撃を避けたかと思うと、不意にセレイアの目の前から消えたのだ。

「!!」

どこ、と思う間もなく、悲鳴があがった。

ブレイズの声だ。

なんと甲虫は瞬時に空高く舞い上がり、ブレイズに狙いを定めたのだ。

「ブレイズさん! 危ない!」

ディセルの叫びと激しい水音、そしてセレイアが咄嗟に手にした槍を投げつけるのが、ほぼ同時だった。

槍は甲虫を、空中で見事に串刺しにしていた。

ふわりと霧散する甲虫。そして槍が泉に落ちる。

それを回収しようと視線を動かし、セレイアは目を剥いた。

泉の中に、びしょぬれのディセルとブレイズの姿があったのだ。

「あいたた…」

「冷た……」

「ディセル! ブレイズさん! 大丈夫!?」

セレイアが慌てて駆け寄ると、二人は弱い笑顔を浮かべて見せた。

「この通り、けがはないよ。ブレイズさんは大丈夫?」

「はい」
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